松本人志復帰も反省ゼロ、「干された」で笑いを取る残念感…動画配信は「不祥事芸能人再生工場」でいいのか

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かつてお笑いで頂点に立ち、天才と呼ばれたダウンタウンのさん。コラムニストの藤井セイラさんは「松本氏は週刊誌報道からの休業後、11月4日に動画配信サービスで復帰したが、その発言は休業前と比べても全くアップデートされていなかった」という――。

■有料チャンネルでひっそりと復帰

2025年11月4日、ダウンタウンのがひっそりと復帰した。といっても、『週刊文春』で複数の女性への性行為強要疑惑が報道されたことについて、いまだに明快な説明をせず、「事実無根」とも証明できていない彼には、おそらくスポンサーがつかず、テレビには出られないのだろう。そこで彼は、吉本興業に「復帰舞台」を用意させた。それが月額1100円の動画配信サービス「DOWNTOWN+」(ダウンタウンプラス)だ。

ファンの中には「あの疑惑」について彼の口から説明が聞けるのではないか、そうすれば松ちゃんをふたたび応援できるかもしれない、そんな期待を抱いて1100円を払い、配信動画を見た人もいたようだ。

だが、事前に流れた予告映像からして、疑惑に向き合う誠実さはかけらもなかった。

■疑惑をネタに「観覧女性に笑わせる」見せ方

「プライベートな問題がまだ解けてない」と口をとがらせて話す。なぜか観覧には若い女性たちばかりが座り、彼女たちが笑う様子が映し出される。

写真=iStock.com/Jub Job
※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Jub Job

女性が笑っているのだから、問題ない、許されています、とでもいいたげなカット割だ。ドンずべりにしか見えないが、おもしろいのだろうか。

■活動休止を「干された」という他責と幼児性

期待された生配信でも冒頭「干された」を連発し、まるで誰かのせいでテレビに出られなくなったかのように話す他責ぶりと幼児性を松ちゃんは見せつけた。ダウンタウンの番組をずっと見てきた昭和生まれの筆者としては、これ以上、「天才の偶像」を壊すのはやめてほしい、といたたまれない気持ちになる。

「事実無根なので闘いまーす」と宣言し、裁判で身の潔白を示すために自ら活動休止したはずが(その後、松本氏側から取り下げ)、どういうわけか彼の中では「干された」ことになっているようだ。

セクハラやパワハラなど、権力差を利用したハラスメントでよく見られる特徴に「加害者が被害者ぶる」ということがある。

■あくまでもお笑い界でのヒエラルキーに執着

松本は「たくさんの芸人仲間とか、後輩を巻き込んだりとかしました」とも発言。彼の迷惑をかけた相手には、スポンサー、お茶の間の視聴者、そしてなにより被害者とされる女性たちは入っていないようだった。

ああ、徹底的に、お笑い界という「内輪」の上下関係が彼にとって重要なのだろう、そのトップに君臨しつづけることが彼の存在意義なのだろう、と思わされる。

だが、そのプライドこそが彼をこのスキャンダルに陥らせた元凶のように見えるのだ。

■「お笑いの王様」となり…ブレーキ役のない不幸

お笑いで頂点を取ったは、1993年に出した著書『遺書』がベストセラーになり文化人的な立ち位置になった。2007~13年には、お笑いの先輩・北野武に憧れたのか、『大日本人』などを監督し、映画制作にこだわっていた。自信満々でプロモーションや宣伝もし、大コケした。それでも吉本経営陣は松本を甘やかし、何度も多額の費用がかかる映画づくりを許した。

性行為強制疑惑が世に出たあとも、彼らはその「甘さ」で追及しなかったのではないか。本人へのヒアリングすらしないまま、松本が「事実無根なので闘いまーす。それも含めワイドナショー出まーす」とSNSで発信する事態となる。だがそれは誤りであり、吉本興業は訂正のプレスリリースを出した。「事実無根」ではなかったようだ。

そんな環境だから、松本は自身の過ちに気がつけないのではないか。

■叱ってくれる人を失った中高年の末路

叱ってくれる人のいなくなった中高年男性には、ふたつの道が用意されている。ひとつは、わが身をふりかえって軌道修正したり、周囲に感謝したりしながら生きていく道。もうひとつは、周囲をイエスマンで固める道。松ちゃんはおそらく後者をたどっているのではないか。

写真=iStock.com/itakayuki
※写真はイメージです – 写真=iStock.com/itakayuki

お金もある、過去の名声もある、育てた後輩もいる、だからついてきてくれる人はいる。だが、人間としてそれでいいのだろうか。

■一番大切な「浜ちゃん」の不在が気になる

ダウンタウンプラスには、実は一番大切な人が欠けている。相方の浜ちゃんだ。浜田雅功の出演作は、過去の番組に限られる。浜ちゃんは現在も地上波で4本のレギュラー番組を抱えており、巻き込むわけにはいかなかったのだろうか。

松ちゃんは自分のいうことを聞いてくれる吉本幹部や、構成作家、後輩芸人、性行為強制疑惑があろうとも課金してくれる熱心なファンには「干された」「事実無根」というストーリーを語れても、唯一、対等な浜ちゃんにはそうできなかった、もしくは通用しなかったのではないか、と想像してしまう。

浜ちゃんはいま、六本木の麻布台ギャラリーで、浜田雅功展「空を横切る飛行雲」と題してアートの展示をやっている。方向性の違いを感じる。

■「お笑い界のために一肌脱ぐ」という勘違い

松本は生配信で「日本のお笑いがしんどいと聞きまして、私、復帰することにいたしました」とも語った。まるで世のため人のため、後輩芸人のために復帰するかのようなおためごかし。自分のために用意させた舞台であるにもかかわらず。これにはさすがにSNSでも「がしんどい」というツッコミが散見された。

1990年前後の、東京に本格進出したばかりのなら、そんな格好悪い発言をする62歳のことなどケチョンケチョンにいっただろう。その切れ味こそが彼の売りだったのだから。

今回の配信で松本は「おれ吉本から1回、15万の時あったからね! 本当に働かないと本当にカネくれない」と、休業中の収入の少なさについて嘆いていた。

自分はテレビに出たい、月給15万円はつらいけど、地上波だともうスポンサーがつかないからテレビ復帰は難しい、そこで吉本興業に有料チャンネルつくってもらった、ということだろうか。

■性行為強要疑惑については説明せず

2023年末から2024年にかけて、『週刊文春』によっての性行為強要疑惑が報じられた。後輩芸人らに飲み会と称して女性を集めさせ、直前に場所をホテルのプライベートルームに変更し、スマホ類を没収し(録音や録画、外への通信をできなくする)、松本をはじめ構成作家ら複数人で女性に迫った。これは「上納」と呼ばれ、くりかえし行われていた――という衝撃的な内容だった。

もし報道が本当なら「エントラップメント型性犯罪」(少しずつ言うことを変えて、最終的に逃げられない状況に追い込む)であり、これが組織的、継続的に行われていたなら、多くのテレビ局で番組制作に携わり、クールジャパン事業や大阪万博などの公的な事業にも参画する吉本興業にとっては、致命的なスキャンダルだ。

写真提供=共同通信社
「御堂筋ランウェイ」に登場したダウンタウンの(右)と浜田雅功。左は松井一郎大阪市長(当時)。2022年11月3日、大阪市中央区 – 写真提供=共同通信社

だが、それについて松本は、記者会見はおろか、説明する場も一度も設けなかった。その後、松本と親交が深く「まつもtoなかい」(フジテレビ)でダブルMCを務めていた中居正広の性加害が発覚し(フジテレビ第三者委員会で認定)、中居はそのまま芸能活動を引退する。

■謝罪すればテレビ復帰もあったかもしれない

なぜ松本は、きちんと記者会見できなかったのか。自分名義でのプレスリリースの1枚すら、出せなかったのか。

謝罪し、認めるべきは認め、否定すべきは否定し、相手との示談をとりつけ、謹慎や減給という期間を置けば、またテレビに出ることもできたかもしれない。報じられた内容からするに、欧米であれば表舞台に立つのは厳しいだろうが、女性への加害に甘い日本社会ならテレビ復帰の線もあったのでは、と筆者は思う。

だが彼は真逆の行動に出た。

「事実無根なので闘いまーす」

文春を自分から訴えておいて取り下げるということを、わざわざ敏腕弁護士に依頼してやってのけたのだ。意味がわからない。

■動画配信は不祥事芸能人再生工場ではない

いちばん恐ろしかったのは、次の発言だ。

松本は生配信で「だからこそ、この場をつくりました。そんな人(自分のように性行為強要疑惑などでテレビに出られなくなった芸能人)もいっぱい出られるようなプラットフォームができたと思っています」と語り、その発言部分を見た立川志らくは自身の配信で「中居君も呼んであげたらいいな。無理かね」といった。

ダウンタウンプラスとは、不祥事芸能人の再生工場かなにかなのだろうか?

いまやYouTubeや有料配信チャンネルは、テレビの外の閉じた世界ではなく、映像コンテンツの主戦場である。

さんざんテレビの恩恵を受けてきた大物芸能人が、性行為強制疑惑でスポンサーが離れたら、釈明も謝罪もなく、今度は吉本興業の配信チャンネルに出る。その吉本は、浜田がMCを務める「プレバト‼」など、地上波各局の番組制作もしている。コンプライアンス的に問題はないのか。その点について朝日新聞が吉本興業に取材しているが、回答はなかったようだ。

撮影=プレジデントオンライン編集部
大阪・関西万博の吉本興業のパビリオン – 撮影=プレジデントオンライン編集部

■再チャレンジには説明と謝罪が必要

筆者は、過ちを犯した人も再チャレンジできる社会がよいと思う。ただし、おなじ不祥事でも、例えばドラッグやアルコール依存症などの「自分を傷つける行為」と、性加害などの「他人を傷つける行為」では性格が違う。また、筋力や体力で劣る女性を襲う、未成年をターゲットとするなどの場合には、より厳しく見られるべきだろう。

芸能人とは「イメージ」を商品としており、その言動は社会的影響力を持つ。その代わりに成功すれば得られるものも大きく、人に夢を見せる存在だ。そういった人が継続的に性加害を行っていたとすれば、本人による説明と謝罪、被害者への補償、同じ過ちを繰り返さないための更生プログラムなどへの参加などが必要ではないだろうか。

■「謝れないおじさん」の末路に気をつけて

現在、ダウンタウンプラスの有料会員数は公表されていないが、YouTubeの公式チャンネル(無料)登録者は27万人を超え、さすがのネームバリューだと感じる。参考までに他のお笑い芸人のチャンネル登録者数を紹介すると、霜降り明星の粗品が238万人、吉本興業をクビになって自前でやっている宮迫博之で123万人だ。

地上波の番組に出つづけていれば、視聴率10%でも、届く相手は全国で1000万人以上いたはずだ。ダウンタウンプラスの有料会員数(予想)は、10万人とも報じられている。仮にその数字が本当なら、氏の神通力が届く相手は、性行為強要疑惑の発覚前に比べ、100分の1となったわけだ。さらに、ユーザーの課金を維持することは簡単ではない。

どうしても謝ることができない中高年の末路には、くれぐれも気をつけたい。

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藤井 セイラ(ふじい・せいら)
ライター・コラムニスト
東京大学文学部卒業、出版大手を経てフリーに。企業広報やブランディングを行うかたわら、執筆活動を行う。芸能記事の執筆は今回が初めて。集英社のWEB「よみタイ」でDV避難エッセイ『逃げる技術!』を連載中。保有資格に、保育士、学芸員、日本語教師、幼保英検1級、小学校英語指導資格、ファイナンシャルプランナーなど。趣味は絵本の読み聞かせ、ヨガ。
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(ライター・コラムニスト 藤井 セイラ)