冬のある日、美容整形外科クリニックを営む医師のもとに、一本の電話がかかってきた。
「会おう」。声の主は、小学生時代に同じ少年合唱団で歌った仲間だった。40年以上の空白を経て、突然の再会を申し出たその人物が、やがて医師の人生を大きく揺るがすことになる。
様々な儲け話が…
東京都内で開業する原告の医師は、かつての友情に心を動かされ、再び交流を始めた。
小学生時代に合唱団で一緒だったという被告が、原告に突然電話したのは2014年のことだった。
その翌年には、被告は原告が経営する美容外科クリニックとは別のクリニックの買収、運営、美容化粧品の販売などを事業内容とする新会社への出資を提案。医師である原告がそれに応じたことをきっかけに、金銭のやり取りが始まった。

被告は、「投資の枠がある」などと言葉巧みに“古い友人”から大金を引き出していった。
「毎週10%の配当が出る」
2016年から2021年にかけて、被告が原告に「1000万円の投資枠がある。預けてくれれば毎週10%の配当として100万円を渡せる」といった趣旨の説明を繰り返していたと原告側は主張。
原告はその言葉を信じ、現金を手渡したり、口座に振り込んだりして、合計6億2083万6000円を被告に交付したという。
原告は、被告にお金を渡すたびにメモを残していた。
そこには「500万クリニック下でわたす」「78万を振り込む」など、具体的な金額と状況が記されていた。
裁判所はこれらのメモを「当時の記録として信用性が高い」と判断し、金銭のやり取りが実際にあった認定した。
その上で、原告がお金を返すよう求めた際に、「金融庁に金を払えば配当が下りるようになる」など虚偽の説明をしたとも認定。「原告は被告の虚偽の説明を信じて、多額の金銭を交付してきたことがうかがわれる」とした。
そして、「これらの事情に照らせば、『枠』への投資名目の詐欺があったと認められる」と断じた。