
2025年10月末、秋田県内のJR線路で寝ていた子グマ。数時間後、轢かれてペシャンコになってしまった(住民撮影)
「クマがいることが日常になっている」──驚くべき実態を明かすのは秋田市内に住む男性だ。全国各地で“クマ被害”が報じられている昨今。人身被害件数が岩手県に次いで多く出ているのが秋田県だ。従来のやり方では対応しきれない事態に陥っている。
そこで陸上自衛隊は11月5日、秋田県知事から緊急要望を受けたクマ対策支援の一環として、秋田県内で箱わなの輸送を担うなど、クマ対策の活動を開始。自衛隊法100条などに基づく「民生支援」の形で、今回小銃などは携行せず、今月30日まで従事する形になっている。
自衛隊の活動をさらに補うような形で、警察庁は6日、ライフル銃などの特殊銃をクマの駆除に使用できるよう、国家公安委員会規則を改正。これまではハイジャック対処などに使用が限定されていたが、同日から秋田、岩手両県に、県外の専門部隊の隊員らを派遣。規則が公布・施行される13日からクマの駆除に対応できるよう、訓練を実施することになった。
「秋田県の鈴木健太知事は元自衛官なので、自衛隊がクマを駆除できないのは重々承知だったはずだが、それでも手を借りたいほどクマ対策に頭を悩ませていました。現在は国内を揺るがす大問題となっているだけに、警察庁も協力することに。自衛隊の活動は非常に注目され、活動初日の模様をヘリコプターで空撮して報じているメディアもあったほどです」(地元紙記者)
自治体・自衛隊・警察vsクマの舞台となっている秋田県だが、県内に住む住民は“クマ騒動”をどのように捉えているのだろうか。冒頭の男性が現地の実態をこう明かす。
「先日は電車の線路上で、子グマが寝そべっている姿を目撃したんです。線路は山間部を通っているので、昔から新幹線にクマやシカがぶつかって遅延することはよくありましたが、今や線路に入り込むなんてことは日常茶飯事になっています。
その時も『ああ、寝ているな』と思っただけだったんですが、数時間後には電車に轢かれてペシャンコになっていました。結局片付けも上手く進まないのか、子グマの死骸が何日か放置されているうちに、カラスに食べられてしまっていましたね……。
最近は新幹線だけでなく、踏切付近や車道で、車にもぶつかってしまう事故があります。もうすぐ雪が降るので、さすがにクマが山から降りてくる頻度も減るかと思いますが……」

クマ捕獲用の箱わなを扱う自衛隊員の様子(陸上自衛隊秋田駐屯地提供)
恐怖を感じる一方で、このクマ騒動の中でも商魂たくましい住民もいるようだ。同じく秋田市内で勤務する会社員が語る。
「10月末ごろ、秋田市内にある個人でも出店できるレンタルスペースを通りかかったところ、ある女性が『命がけでとってきた「クリ」や「クルミ」です』とうたって、クリやクルミ、山菜なんかを売っていたんです。売り切ったところでそこまで大金を稼げるわけでもないのに、襲われるリスクを冒してクマのエサになるものを採ってきて大丈夫なのかと思ってしまいました……。
それでも、山菜採りが好きな友人に聞いてみたら、『自分だけは大丈夫と思うしかない。ほかの人に先に採られるのが我慢ならない。だから危険でも行く』と話していました」(秋田市内に勤務する会社員)
熊によって脅かされつつも、県民は“日常”を過ごしている。地元に住む人々の生活を守るため、自衛隊と警察庁はどこまで県をバックアップできるのか——その効果が注目される。