仲代達矢さん悼む“抜き身の真剣”で舞台に立ち続けた名優 印象に残る「舞台は足腰です」何事にも真剣

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 映画「人間の條件」や黒沢明監督の「影武者」などに主演し、主宰する「無名塾」で後進を育てた俳優で文化勲章受章者の仲代達矢(なかだい・たつや、本名元久=もとひさ)さんが肺炎のため死去したことが11日、「無名塾」の公式ホームページで発表された。92歳。東京都出身。娘で歌手・仲代奈緒がみとった。5~6月に石川・能登での復興公演舞台で反戦劇「肝っ玉おっ母と子供たち」への出演が最後だった。通夜・告別式は近親者のみで行い、お別れの会などの予定はないという。

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 仲代さんを取材したのは80歳の時でした。あのぎょろりとした大きな目には力がみなぎり、舞台で鍛えた声には張りがありました。「あと2~3年頑張るつもり」と当時は話していましたが、90歳で舞台に立ち、演出も手掛けていた姿には感動すら覚えました。

 ラジオ番組で声を聞くだけでもうれしくなりました。個人的に陰ながら「90歳と言わず100歳まで頑張ってほしい」と願っていたので、突然の訃報、残念でなりません。

 仲代さんを一言で表すなら「抜き身の真剣」でしょう。映画「切腹」の中では、実際に真剣を使って撮影したというエピソードもありますが、仲代さんは何事にも「真剣」でした。演技を巡って萬屋錦之介さん、三船敏郎さん、三國連太郎さんらとケンカしたのは有名な話ですが、取材を受ける際にも、仲代さんは真剣勝負でした。

 初対面の人には「この人はどこまでオレを知っているのだろう」と探りを入れるし、なじみのライターでさえ「今日はどこまで調べてきたか」と試すほどでした。

 仲代さんの言葉の中で、強烈に印象に残っているのは「舞台は足腰です」という言葉です。舞台には自分の足で立たなくてはいけないのは当然ですが、声も舞台用の出し方をしなければなりません。これが、どんなに大変かは仲代さんは熟知していました。90歳を超えてからも舞台に立てたのは、この言葉を肝に命じていたからでしょう。

 テレビ・映画と違う、観客との「真剣勝負」が舞台。だから、無名塾で役者の育成に取り組みながらも、舞台だけで飯を食えるのは一握りだけと、ハッキリ言えるのです。そのうえで「舞台では食えないけど、舞台をちゃんとできれば(テレビ・映画にも)適応できます」と強調しました。テレビや映画で主役を演じながらも、この言葉で分かる通り、仲代さんの軸は常に舞台にあったのです。

 仲代さんには、インタビューとは別に石川県七尾市の能登能楽堂で公演中、東京からの電話でコメントをいただくという無礼な取材をしたこともあります。これにも、真摯(しんし)に対応していただいたのも忘れられない出来事です。合掌。(元デイリースポーツ芸能デスク・木村浩治)