
映画「人間の條件」や黒澤明監督の「影武者」など多くの名作に主演した俳優、文化勲章受章者で、8日に肺炎のため92歳で死去した仲代達矢(なかだい・たつや、本名元久=もとひさ)さんの通夜が13日、都内で、近親者のみでしめやかに営まれた。仲代さんが主宰する「無名塾」出身の俳優・役所広司(69)と益岡徹(69)も弔問に訪れ、涙ながらに恩師との別れを惜しんだ。
役所は「ひげもそろって、本当にきれいな顔でしたね」と、別れの時間を振り返った。
最後に会ったのは5月末で「スイカを持って(稽古場に)おじゃました。会う度に『芝居やんなさいよ、舞台やんなさいよ』って」と熱心な言葉をかけられた。「面白い人なんですよ。次の(世代の)人たちは重厚で怖いイメージかもしれないですけど、ユーモアのある人」と人柄を語りながら涙ぐみ、「失敗したりもするんですけど、それを楽しんでやるような人ですね」と惜しんだ。
「思い出はいっぱいありますよ。僕は本当にいい塾生じゃなくて、多分僕が一番怒られたんじゃないかな、その記録はまだ破られていないのかな。謹慎処分を受けたこともありました」と明かし、「でも親でもないのにこんなに怒ってくれる人はありがたい」と、しみじみと懐かしんだ。
入塾に遅刻した時は「時間通り来るんだったら君はもう1時間前に来い、2時間前に来い」と厳しくしかられ、「早く行かないと落ち着かない体質になった。おかげさまで」と感謝した。
仲代さんが出演するドラマで初めて共演した際は、2人で話すシーンに緊張。「NGを出しちゃいけないと思ってかなりせりふを用心しながらしゃべった」ところ、「せりふを用心するな、NGを出してもいいから」と鋭く指摘された。教え込まれた役者の基礎は「いつも仕事する時に今でも思い出します」。通夜では「ありがとうございます」と声をかけたといい、「お世話になって。感謝の気持ちしかないです」と瞳を潤ませた。
益岡は「驚きがありました」と悲痛な表情。来年は舞台「大地の子」で、かつてドラマで仲代さんが演じた役を演じることもあり、「仲代さんにどこかで言いたいなと思っていたんですけど、結局お伝えできなかった。その思いを一緒に、二人三脚ではないけど、そういう形で迎えられたら」と語っていた。