「『一晩で70回くらい仮死状態になっている』と」芋洗坂係長は40歳を前に重度の睡眠時無呼吸症候群と診断

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 タレントで俳優の(57)は、40歳を前に重度の睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断された。そのまま放っておけば命の危険もあるとされたが、「CPAP」と呼ばれる症状を改善する睡眠時の治療を続け、現在は健康を維持している。国内の潜在的患者数が1000万人近くに及ぶとも言われる一方で、最近になってようやく認知度が上がってきたSASに「僕のように適切な治療を受けて、充実した生活を送ってほしい」と呼びかけた。(高柳 哲人)

 100キロを超える巨体ながら、キレのある軽快なステップで舞台上を動き回ったかと思えば、ミュージカル俳優として歌声を披露するなど多彩な活動を続けている。だが、20年近く前に適切な治療を受けていなかったら、今の活躍はなかったかもしれない。

 SASと診断されたのは40歳を前にして検査を受けたのがきっかけだったが、“異変”は20代の時から感じていた。「劇団のメンバーと地方に行って大部屋に泊まる時に『いびきがうるさいかも』とあらかじめ伝えると、最初はみんな『俺たちもそうだから』と笑っていた。その後、寝ていたら夜中に部屋の電気がついたんです。目を開けると全員が僕を取り囲んでいた。あまりにもうるさかったようで、一番の年長者から『鼻を切るぞ!』と言われて『廊下で寝ます』と言ったこともあります」

 仕事にも如実に影響が出た。劇団の稽古で、演出をつけている時に、いつの間にか「落ちて」いた。「当時は夜遅くにショーパブで働いていたので、最初の頃は周りも『疲れているんだろう』と我慢していたみたいなんですが、それがいつもなので怒っちゃって。打ち合わせでメンバーが台本をテーブルにたたき付けて出て行ったこともあったんですが、その時ですら僕は覚えていなかった。目が覚めて『どうしたの?』と聞いたら、残ったメンバーが『寝てるから帰っちゃいました』と」

 何かがおかしいと感じながらも日々生活を送っていたが、ある時、決定的な“事件”が起きる。「バイクの後ろに人を乗せて信号待ちの時にウトウトしちゃって。『起きろ!』と後ろからヘルメットをたたかれたんですね」。命の危険を感じ、製薬会社に勤める知人の勧めもあって呼吸器内科へ。そこで衝撃的な事実を告げられた。

 「SASの最重症だと診断されました。『一晩で70回くらい(呼吸が止まって)仮死状態になっている』と。90%台前半でも危ないと言われる血中酸素濃度が、睡眠中に80%を切って78%とかになっていたそうです。いつそのまま息を引き取ってもおかしくないくらいの状態と言われました」。そこで紹介されたのがCPAP【注】だった。だが最初の1、2か月は、なかなかなじまなかったという。

 「(機器が鼻を覆うので)慣れないと違和感があって、寝ている時に無意識に外しているんですよね。それが嫌で、やめてしまう人も多いみたいです。でも、僕の場合は『治療法はそれしかない』と思ったので、仕方なくつけていた。そうしたら、目覚ましく数値が改善されていったんです」。それに伴い、朝の目覚めがスッキリするようになった。以前は夜中にトイレに行くために7、8回起きていたのが、一度も起きない日があるようにもなった。

 SASの大きな原因として、肥満が挙げられる。も医師に「痩せられませんか?」と問われたという。だが、タレントのウガンダ・トラさん(2008年死去、享年55)の「太った体で踊れたら面白い」とのアドバイスで意識的に体重を増やしたにとって、築き上げたキャラクターを変えるつもりはなかった。

 「だから『仕事的に痩せられないんです』みたいな話をしたら、医師から『じゃあ、もう太く短い人生だったということでよろしいですね』と三行半(みくだりはん)を突きつけられました」。ただ、CPAPによる治療で、現在は健康そのもの。「CPAPを使っていなかったら、この年齢まで絶対に踊ったり歌ったりできていないというのは、ものすごく思います」とまで言い切る。

 身をもって有効性を知っているからこそ、同じ病気で苦しむ人たちに治療を呼びかける。潜在患者数が多いこと、生活習慣病につながりやすいことから、糖尿病などと同じく「現代の国民病」とも言われるようになったSASだが、睡眠時に発症し、直接的な痛みなどがない。そのため、最近になってテレビ番組などでその怖さが取り上げられるようになったものの、「すぐに困らないんだったら…」と放置しておく人が多いのが現状だ。

 「周りを見ると『自分は平気だ』と言ってても、その奥さんが『息止まってるよ』と指摘することはありますね。その時は『間違いないから一度検査した方がいい』と忠告するようにしています。とにかく検査しないと分からないし、本当に危険な病気なので。CPAPをつけるのはうっとうしいかもしれないけど、ちょっと我慢すれば健康が手に入るということを、いろいろな人に伝えたいです」。知人以外にも、医師と共に自らの経験を伝える講演なども行っている。

 一般的にSASは手術などを受けない限りは完治はしない。そのため、治療には恒久的に一定の費用がかかる。それでも、は断言する。

 「僕も劇団時代、若い頃は生活が苦しくてお金に困っていたので、『病院は行かなくてもいいか』みたいに思うこともありました。ただ、健康を害することで必要になってくるお金もあります。『今まで、この状態で生きてきたから大丈夫』じゃなくて、『さらにいい健康状態を得られるなら』と考えて、治療を受けてほしいと思いますね」

 【注】CPAP(シーパップ)とは「Continuous Positive Airway Pressure」の略で、日本語では「持続陽圧呼吸療法」と呼ばれる。SASの代表的な治療法で、睡眠中に鼻を覆うマスクを装着して加圧した空気を送り込むことで気道を確保し、無呼吸状態を抑制する。

 〇…は現在、東京・シアタークリエで上演中のミュージカル「バグダッド・カフェ」(23日まで同所、その後愛知、大阪、富山でも上演)に出演中。「元の映画はものすごい好きだったんですが、『あれをどうミュージカルにするのかな?』という興味がありました。この時代に温かさというか、心に潤いを与えられる作品になっている。ほのぼのとしたものを、お土産として持って帰ってほしいですね」と願った。来年3~6月には、2023年以来の再演となる堂本光一(46)主演のミュージカル「チャーリーとチョコレート工場」にも出演する。