
「廃墟のよう」という噂は本当か?
十条駅(東京北区)北口の再開発事業によって建設された複合ビル『ザ・タワー十条』が’24年9月に完成した。タワーは分譲マンション部分の『THE TOWER JUJO(ザ・タワー十条)』と商業・公共施設部分である『J& MALL(ジェイトモール)』で構成されている。
「十条駅西口地区第一種市街地再開発事業」によって周辺設備含め、多額の税金を投入して建設されたが、「廃墟のようだ」と噂になっている。完成後から1年を経た今でもテナントは埋まっておらず、人の出入りも少ないという。現地で利用者たちに話を聞いた。
物件はJR埼京線・十条駅北口を出るとすぐに姿を現す。地上39階建てのマンションは、近隣の建物を遥かに凌駕しており、その巨大さは確実に街の雰囲気からは“浮いて”いる。ビルの外見は近年よくあるタワーマンションといった具合で高級感のあるものとなっているが、それがさらに特異な存在感を印象付けている。
タワー基壇部に商業エリアの『ジェイトモール』、隣接する建物の3~4階には都税事務所とラウンジ・チルドレンスペースを中心に多目的ルームやホールも利用可能な文化施設『ジェイトエル』が入っている。
ジェイトモールの前に建てられているテナント看板を確認すると、縦5ブロック×横4ブロックのスペースが2つ並んでいる中で、埋まっているのは全体の1/4ほど。空きテナントが目立っている。入居しているのは、セブンイレブン、松屋、クイーンズ伊勢丹といった馴染みのある有名チェーン店ばかりだった。
商業エリアとしてはかなり寂しい状態で「廃墟」と噂されてしまうのも、わからないではない。昼間とはいえ人通りも少ない。店が少ないから人がいないのか、そもそも人が少ないから店が入らないのか。駅前の巨大な商業施設内が閑散としている様子はシャッター街を想起させ、どこか寂しさを感じてしまう。
子連れの利用者らには好評
十条駅前で近隣住民にこのビルを「利用したことがあるか」と聞くと、「物珍しさに数回利用した」との回答が多く、継続的に利用している人は少ないようだ。さらに、利用者の年代によっても差があることがわかった。
30代以上から多かったのは「買うものがない」といった声だ。取材に応じてくれた40代の男性はこう話す。
「テナントがほとんど入ってないですし、縦に長いから買い物しにくいね。私たちが欲しいと思っている商品が無いから、コンビニに行くぐらい。いまだにどんな店舗が入っているのかもわかりませんし、ふだんは商店街で買い物を済ませています」
一方で若年層や子供連れの利用者には好評だった。
「4階に小さい広場みたいな場所があり、子供がそこで遊んでいる間にクイーンズ伊勢丹で買い物ができるので助かっています。子供が利用できる施設も入っているので、家の近所にできてありがたいです」(40代の母親)
「4階に広場があって、そこで友達と集まってだべったり、たまにTikTokを撮ったりしています。駅前に人が集まれる場所が無いので、ここを使っています」(10代女性)
十条には駅前から北へ広がる「東京三大銀座」の一つ、『十条銀座商店街』がある。住民たちの意見は、この地元の商店街を利用している人と、ジェイトモール(とくにクイーンズ伊勢丹)を利用している人とで分かれているように思えた。十条駅近辺に長年住んでいる人は商店街利用が多いようだ。
十条銀座商店街とくらべてみると…
時間を変えて、17~18時の利用者を見てみても、商店街のほうが人通りが多く、買い物客でにぎわっていた。商店街を日常的に使っているという女性はクイーンズ伊勢丹は「高級志向」だと指摘した。
「伊勢丹は“モノ”はいいけど高いでしょう。いつもよりちょっとだけ高級なものを買うのならいいですが、ふだんは高く感じます。それに、商店街の馴染みの店で買い物をするほうが世間話もできて楽しいです」
ある男性は、ジェイトモールには居酒屋が無いと嘆いた。
「ふらっと入れる居酒屋が無いんですよね。だから知人と軽く飲もうって時は商店街へ行ってしまいます。できることが限られているんでわざわざ行きませんね」
地元住民は、十条銀座商店街で日常生活に必要なものは賄えているようだ。ジェイトモールの想定客層は昔からこの地域にいる住民ではなく、再開発により転居してきた新住民なのかもしれない。
ジェイトモールのテナントに全国的に有名なチェーン店が多いのは賃料の問題だろう。ジェイトモールの場合は坪単価平均で3万円ほど、十条銀座商店街は物件によってばらつきが大きいものの、平均2万4000円ほどだといわれている。地元で愛されている小さな個人商店には高額で、出店は厳しいのかもしれない。
現地を歩いて見えてきたのは新しくできたタワマンと昔ながらの商店街の“温度差”だった。タワーマンションなどを次々と建設する再開発の多くは、防災や地域の活性化を謳って行われているが、反対されることも多々ある。
その地域の事情を考えずに……例えば、昔ながらの元気な商店街のすぐ横に小ぎれいな商業モールを建てるようなやり方は、上手く行かないのかもしれない。




