佐野海舟・鈴木淳之介の台頭で若手の底上げに希望が見えた!森保ジャパンの「進化」と北中米W杯の勝算

〈11月18日のボリビア戦に快勝し、今年の全日程を終えた森保ジャパン。来年には北中米W杯を控えるなか、悲願の「ベスト8」以上に食い込むことはできるのか。10月のブラジル戦の歴史的勝利に加え、今年行われた代表選を数多く現地取材したライター・元川悦子氏が語る〉

「歴史的勝利」となったブラジル戦などで躍動した佐野海舟。ブラジルのエース・ヴィニシウスにも仕事をさせなかった

課題だった新世代の台頭

11月のガーナ・ボリビアとの2連戦を連勝で飾り、’25年の代表活動が一区切りとなった森保ジャパン。今年の戦績は8勝3分2敗(国内組で挑んだ7月のE-1選手権=韓国を含む)となった。

’25年初戦となった3月20日の北中米ワールドカップ(W杯)最終予選・バーレーン戦を2−0で勝ち切り、世界最速の本大会切符を手にしたことから、森保一監督(57)はそこから戦力の底上げに注力することができた。その結果、6月以降は佐野海舟(24・マインツ)、藤田譲瑠チマ(23・ザンクトパウリ)、鈴木淳之介(22・コペンハーゲン)、高井幸大(21・トッテナム)といった’01年生まれ以降のパリ五輪世代が着実に台頭。特に10月のブラジル戦で歴史的勝利の原動力となった佐野、鈴木は一気に主軸の座を射止めつつある。それは非常に前向きなポイントと言っていい。

ご存じの通り、森保監督は’18年9月から日本代表の指揮を執り、’22年カタールW杯に参戦。ドイツ・スペインという強豪国を撃破した実績を認められ、’23年3月から第2次体制に突入した。が、第1次体制からの主力である遠藤航(32・リバプール)、伊東純也(32・ゲンク)、三笘薫(28・ブライトン)、堂安律(27・フランクフルト)らが第2次体制でもそのまま持ち上がる形となり、“主力固定”が懸念されていたのだ。

実際、’24年9月〜’25年6月にかけて行われた北中米W杯最終予選を見ても、得点上位の鎌田大地(29・クリスタルパレス)、南野拓実(30・モナコ)、守田英正(30・スポルティング)、久保建英(24、レアル・ソシエダ)らはいずれも’22年W杯経験組。つまり、最終予選を勝ち抜いた日本代表は20代後半から30代にかけてのメンバーが大多数。20代前半だったのは、久保と鈴木彩艶(ざいおん・23・パルマ)くらいだ。ゆえに、20代前半以下の若い世代の台頭が強く求められていたのである。

ケガ人続出のディフェンス陣にあって急激に存在感を高める鈴木淳之介。日本人離れした高いフィジカル能力が魅力だ

香川・本田・長友がいても勝てなかった

若手の突き上げが少ない代表というのは、どうしても頭打ちになりがちだ。実際、日本サッカー界は’06年ドイツと’14年ブラジルの両W杯で苦い経験をしている。

前者に関して言うと、’02年日韓W杯で史上初のベスト16進出を果たした宮本恒靖(48・現JFA会長)、中田英寿(48)、柳沢敦(48・鹿島トップコーチ)、小野伸二(46・Jリーグ特任理事)らがそのまま4年後も主力を担い続けた結果、ドイツで未勝利という屈辱を味わった。

後者にしても、’10年南アフリカW杯をけん引した長谷部誠(41・日本代表コーチ)、本田圭佑(39)、長友佑都(39・FC東京)ら看板スターはずっと同じだった。当時のアルベルト・ザッケローニ監督は大迫勇也(35・神戸)や山口蛍(35・長崎)ら若手を呼んで底上げを図ろうとしたが、間に合わず、「史上最強」と呼ばれた集団は、1勝もすることなく惨敗したのである。

「1年後に向けてもっともっと新たな選手が出てきて、競争が激化していくことが大事。それが既存メンバーの緊張感を高めることにもつながってくる。W杯という特別な舞台を最高のメンバー、最高の環境で戦えるように、ラスト1年を有効活用することが何よりも重要だと思います」

これはドイツW杯でキャプテンを務めた宮本会長の発言だが、本当に熾烈な競争がなければ、チームは活性化しないし、「W杯優勝」という大目標にも到底、届かない。それは森保監督もよく分かっていること。だからこそ、代表実績の乏しい20歳前後の選手を積極的に呼んで起用したのである。

この1年間、日本代表の主力級に負傷者が続いたことも、“ケガの功名”となった部分はある。特に守備陣は’24年6月を最後に代表参戦が叶っていない冨安健洋(27)を筆頭に、伊藤洋輝(26・バイエルン)、町田浩樹(28・ホッフェンハイム)が長期離脱。10月には板倉滉(28・アヤックス)も負傷辞退を強いられた。

そこで異彩を放ったのが、ブラジル戦で圧巻パフォーマンスを見せた鈴木だ。湘南ベルマーレ3年目の’24年夏にボランチからDFにコンバートされ、1年も経たないうちに代表入り。今夏の欧州移籍をつかみ取った22歳の新星は、対面したブラジルの至宝・エステバン(18・チェルシー)を徹底マーク。攻撃の起点となるパス出しも披露し、見る者を驚かせる仕事ぶりを見せつけたのだ。そして11月のガーナ戦でもさらなる安定感を見せつけ、W杯行きをほぼ手中にしたと言われるほどになったのだ。

明かした「選考基準」

彼に匹敵するインパクトを残したのがボランチの佐野である。守田の長期代表離脱と遠藤航の負傷辞退によってチャンスを得たわけだが、持ち前の対人守備の強さとボール奪取力、そして攻撃の起点となるパス出しの鋭さを強烈にアピール。「リバプールで試合出場機会の少ない遠藤を追い越した」という高い評価も得るに至っている。

この2人のみならず、11月シリーズでは191cmの20歳の長身FW後藤啓介(シントトロイデン)が頭抜けたポテンシャルを披露。19歳・佐藤龍之介(岡山)も凄まじい成長曲線を示しており、’26年前半の活躍度次第ではW杯メンバー滑り込みもないとは言い切れない勢いを感じさせている。

一方で、まだ代表定着は叶っていないが、今季からドイツ1部に初参戦し存在感を引き上げつつある鈴木唯人(24・フライブルク)、オランダ1部で3シーズン目を戦っている佐野海舟の実弟・航大(22・NECナイメンヘン)らも所属クラブで実績を残しており、W杯行きのチャンスはありそうだ。若い選手が増えれば増えるほど、日本サッカーの未来は明るくなるのは確かだろう。

「選手をどうやって固めていくかっていうところですけど、W杯直前まで固まらないかなという気持ちでいます。それは今の代表チームのケガ人を見ていただければお分かりになるかなと。世界一を目指せるメンバーとしては、本当に沢山の候補がいるので、最後に状態のいい選手を選んでいきたいと思います」

森保監督もボリビア戦後の会見でこう語っており、ギリギリまで戦力を見極めていく構えだ。南野や鎌田、堂安、久保らが軸を担う構図は不動だろうが、冨安や守田の復帰はあるのか、若い世代がさらに増えていくのかは、’26年前半の動向次第ということになる。W杯の成否は本番前半年が全てと言っても過言ではない。ここからの1人1人のパフォーマンスを注視しつつ、本当に勝てる陣容・環境整備を進めてほしいものである。