立川志らく「私は社会不適合者の代表」 テレビ出演の裏側と落語家40周年への思い

立川志らく(撮影・毛利修一郎)
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立川志らくは、政治や社会問題に鋭いコメントをする落語家として注目されていますが、特定のイデオロギーを持たず、芸人としての役割を果たしていると語ります。今年は師匠・立川談志の門をたたいてから40年の節目で、独演会で「談志・馬生十八集」に挑戦し、成長した姿を見せたいと意気込んでいます。

テレビの情報番組やX(旧ツイッター)で政治や社会問題に対して舌鋒(ぜっぽう)鋭いコメントを飛ばすことで人気の落語家が、立川志らく(62)だ。今年は師匠、立川談志(2011年死去)の門をたたいてから40年という節目を迎えている。

「政治発言」で知られる落語家の本音

「私は政治の専門家でもないし、コメンテーターだとも思っていないんです。番組に呼ばれて出て、ただ落語家としてしゃべっているだけ。 だから、右とか左とかのイデオロギーもないんですよ」

だからこそ忖度(そんたく)なくコメントできるということか。とはいえ、視聴者やネットで寄せられる反応はさまざま。批判にさらされることも少なくない。

「SNSなんかで『ずっとリベラルだと思っていたのに!』と怒られたり、『志らくの言うことは正論だ!』とか言われる。でも、そんなわけはないんですよ! 私は別にものすごく政治について勉強してるわけでもない、社会不適合者の代表である落語家ですから。物事を普通に見ていて思ったままを言っているだけです」

あるいはその目線の低さこそが、視聴者の膝を打つ言葉が出てくる秘訣なのかもしれない。政治家を見る目もユニークだ。

「自民党の総裁選なんかをネットニュースとかで見ていてね、 一番面白かったのは小泉(進次郎)さんなんですよ。言っていることがめちゃくちゃで、落語の登場人物である『与太郎』みたいだから。この人がトップになったら、みんなからボロカスにたたかれるんじゃないかと心配してみたりね」

一方で総裁選に勝利し、憲政史上初の女性首相となった高市早苗氏(64)については、期待を寄せいている。高市内閣では、自身にとって”推し”である小野田紀美氏(42)が経済安全保障担当相に起用されてご満悦だ。「自分たちが住みいいような国にしてくれるのではないか、って期待しているんです」とニヤリ。

インタビューに応える立川志らく(撮影・毛利修一郎)

「まあ、テレビなどでたまたま私が政治について発言したことがバズったといっても、芸人ですから。あおられてやっているだけ。評論家とか政治家がいる討論会なんかでケンカするほどの知識はありません。それも落語家の生き方なんです」

40周年の集大成「談志・馬生十八集」への挑戦

12月20日に有楽町よみうりホール(東京都千代田区)で行われる今年最後の独演会(産経新聞社主催)では、「談志・馬生十八集」というテーマで、談志と十代目金原亭馬生(1982年死去)、自身にとって「2人の師匠」の十八番に挑む。

「もちろん自分の師匠は談志なんだけども、学生の頃、実際に弟子入りしようとしたのが馬生師匠でした。馬生師匠がいなかったら、落語家にはなっていなかったでしょう。だから40周年のファイナルとして、2人の師匠の十八番をやることにしたんです」

談志と馬生の落語に魅了されたいきさつとは?

「馬生師匠は古典落語の名人の香りがする落語家。子供の頃、レコードとかカセットデープとかで耳にした、昭和の名人たちの匂いを色濃く継いでいた落語家が、私の中では馬生師匠ということです。だけど亡くなってしまったので弟子になる道は断たれ、その後に触れたのが、談志の高座。談志は名人の匂いと現代の息吹の両方を持ち合わせたすごい落語家でした。2人の落語が、自分の中ではベースになっていると思います」

「登場人物が勝手にしゃべる」境地へ

「落語家の爛熟(らんじゅく)期」とされる60代に突入し、40周年を迎えてもなお、自身は「2人の域には到達していない」という。

「ただ、あの領域に行こうとずっと追求し続けるようにはしていて、そういう意味では、ここまで順調に来ているんじゃないでしょうか」

落語家としてさらなる高みを目指す(撮影・山田雅子)

独演会の目玉は、談志が得意とした「芝浜」だ。還暦を迎えてから、夫婦の愛情を描くこの人情噺(ばなし)を「69歳になるまで毎年披露する」と宣言していた。

「本番になってみないと分からないところもありますが、『芝浜』というのは自分の体の中にしっかりと入っている噺。談志なんかは全編アドリブでやったこともありましたね。どういうことかというと、『登場人物たちが勝手にしゃべり始めたんだ』っていう言い方をしたんですね。自分はまだその域には到達していないから、やってみないと分からない。時期がある程度近くなってきたら、策は練るんでしょうけどね」

今年は7月に座骨神経痛のため入院するというアクシデントにも見舞われた。今も腰痛の不安を抱えたまま高座に上がり続けている。

「入院してから、ちょっと自分の中で落語が停滞しているというか、下降してしまっている感覚があるんです。釈台を用意して腰の痛みを気にしながらやっていましたし、今も違和感がちょっとあります」

ただ、その経験も「落語にいかせれば」という。

「実際、『芝浜』は1年間やってきたものが集約されるような噺なので。病気したことも人生経験の一つとして、少し顔を出してくるんじゃないかって気がしますね。40周年の最後の独演会ですし、今までとは違うような、落語家として1ステップ上がったと思ってもらえるような姿を見せられれば」

「1年間の集大成」と位置付ける独演会本番に向け、力強く意気込んだ。

■立川志らく(たてかわ・しらく) 落語家。1963年8月16日生まれ。東京都出身。映画監督(日本映画監督協会所属)、映画評論家、劇団主宰、寅さん博士、昭和歌謡曲博士の異名も持つ。父はクラシックのギタリスト、母は長唄の師匠。1985年10月、立川談志に入門。1995年、真打昇進。18人の弟子をかかえる。情報番組「ひるおび」(TBS系)で月曜レギュラーコメンテーター。

(ペン・磯西賢)