「時代に挑んだ男」加納典明(59)「米倉涼子を撮りたい。疑惑の真偽はともかく人間としての…」

米倉涼子(C)日刊ゲンダイ

作家・増田俊也氏による新連載スタート。各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。第1弾は写真家の加納典明氏です。

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増田「トランプ現象のような、一種のウエーブを見て具体的にはどう感じますか」

加納「どんどん今後もトランピストみたいな人は出てくるだろうし、そういう人、そういう集団というか。お友達の変な商売人もいるじゃない。車とか造ってる」

増田「イーロン・マスクとか」

加納「うん。トランプのまわりに蟻みたいに人が集まってるでしょう。それでトランプが帽子かぶってネクタイして、あれも面白いよね、あのおっさん、見てるだけでほんとに面白い。やってることも面白い」

増田「軍のトップとか、サイン一発でいろんな人間を飛ばしてるでしょう。アフリカ系だったり女性だったりに対してもめちゃくちゃ飛ばしてる。あれほどの権力を持ったのは世界史上でもヒトラーとかスターリンとか数人しかいないんじゃないですかね」

加納「トランプのサイン、もう見飽きたよね(笑)。だから、あの男はトランプという一種の新種だよね。だから、そこがアメリカかなとも思える」

増田「日本じゃ現れないですよね」

加納「そこなんだよ、まさにそこなんだよ。従順なる日本人というなかで日本でトランプやれるやつなんているか。いないよね、はっきり言って。サイン1つでね、めちゃくちゃなことやれるやつは出てこない」

増田「トランプを撮ってみたいと思いますか」

「昔、街で会ったことがあるけど、今が一番奇麗じゃないか」

加納「撮ってみたいね。彼の中身を写真に写してみたい。感性みたいなのをね」

増田「世間は『典明は女のヌード』という決まり切った見方をしますけど、男も撮ってますよね。先日おっしゃっていた石原慎太郎とか。あと、井上陽水*とか、桑田佳祐とか」

※井上陽水(いのうえようすい):1948年福岡県生まれ。シンガー・ソングライター。1969年にアンドレ・カンドレの名でデビュー。1971年に井上陽水の名で再デビューして大ブレークした。吉田拓郎とともに1970年代から日本のフォーク音楽界を牽引した。

加納「男を撮るのは嫌いじゃない。どっちかというと男の方がある意味通じやすい。感性がすっきり見えるというか。通じやすいというか、面白い。やっぱり女性はいろんな意識をするわけじゃないけど、ワンクッション、何かそれぞれあるし。被写体としては面白いけど、感性を撮るなら男だな。うん」

増田「女性だったら今、誰を撮ってみたいですか」

加納「米倉涼子なんか面白いかもしれない。いま話題の女性であるっていうことも1つの理由だけども」

増田「薬物疑惑でマスコミを賑わしていますが」

加納「うん。真偽はともかく、そこを含めて米倉涼子の“人間”の部分を撮りたいね。彼女の写真はもちろんあるけども、本当の意味の女優としての写真を撮ってないと思うんだよね。いわゆるプロの写真家がしっかり撮り切ったという写真があってもいいんじゃないかと思う」

増田「もともと注目していただけではなく、今回の騒動で、より撮りたくなったと」

加納「彼女が若いころ街のレストランでチラッと会ったことあるんだけどね。奇麗だなと思った。でも今のほうが興味がある。人間としての艶、深み、奥行きのようなものを撮りたい。今の年齢になって人間的に複雑さを、良くも悪くも持ってるわけだから。 そういうものも含めて写せればと思ってますよ」

増田「若いとか美しいとか、そういうことよりも、人間としてさまざまな経験をしてきた米倉涼子に光を当ててあげたいと」

加納「そうだね。それが本当に個性というものじゃないかな。今くらいの年齢が一番奇麗だと思う」

増田「ではしばらくして今の問題が落ち着いて米倉さんが撮ってほしいって言ったら撮りたいですか」

加納「もちろん」

増田「本人も喜ぶでしょうね」

加納「俺が撮って増田さんがインタビューして。面白そうだね」

(第60回につづく=火・木曜掲載)

▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。

▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。