
「渋滞で止まっているとき、突然、後ろから強い衝撃を受け、私が運転する総重量23tのトレーラーが前に押し出されました。十分な車間をとっていたので前車との衝突は免れましたが、すぐに運転席から外へ出ると、その時点でもう後ろのほうではとんでもないことになっていた。中央分離帯に衝突していた乗用車から炎が上がったのは、直後のことです。本当にあっという間の出来事でした」
こう振り返るのは、大型トレーラー運転手の山口満里子さん(52)だ。
’24年5月14日、午前7時35分ごろ、首都高速の美女木ジャンクションで大型トラックが渋滞の最後尾にノーブレーキで追突。そのはずみで、前に停まっていた6台の車が次々と玉突き状態となり、3台の乗用車が炎上するという凄惨な事故が発生した。
筆者は、事故発生直後の現場を映した動画を入手した。動画には生々しく燃える車が映っている。玉突きされた6台目の車に乗っていた被害者の一人、冒頭で紹介した山口さんが自身のスマホで撮影したものだ。
「とにかく複数の車から炎と煙が上がり、立っているだけでものすごく熱かったことを覚えています」
「意識がもうろうとしていた運転手さんを」
山口さん自身も負傷していたが、2台後ろのトラックの中に運転手がぐったりした状態で閉じ込められているのが見えた。すぐに後続車の運転手とともに駆け寄り、ドアをたたいた。
「最初はまったく反応がなく、死んでしまったのかと思ったのですが……。なんとかドアを開け、2人して意識がもうろうとしていた運転手さんを必死で外へ運び出しました」
数分後、対向車線を走行中の高速パトロール隊が到着。続いて臨場した消防、警察も対応にあたったが、炎上した3台の乗用車の中からは3人の遺体が発見され、山口さんを含む大型車の運転手3人が重軽傷を負った。
「あのときは、一人助けるので精いっぱいでした。炎上している車にはとても近づくことができませんでした……」
’25年11月4日、過失運転致死傷罪に問われていたトラック運転手・降籏紗京(ふりはた・さきょう)被告(29)に判決が下された。東京地裁の大川隆男裁判長は、「交通法規を遵守する意識が低く、前例にあまりないほど犯情が悪い」などと厳しく糾弾。法定刑を超える懲役7年6ヵ月を言い渡した。
片手でスマホを握り……
降旗被告は事故当日、風邪で高熱が出ていたにもかかわらず大型トラックに乗務。前日も十分な睡眠をとらず、ほぼ徹夜で愛人と数百通のLINEを交わしていた。また右手だけでハンドルを握り、片手でスマホを握ってメッセージを打ちつつの「ながら運転」。風邪薬の影響で頭がぼーっとした状態になっていたため、事故直前には居眠りをしていたこともわかっている。
さらに、警察がスマホの履歴を捜査する中で、児童のわいせつ画像をダウンロードしていたことも発覚。「児童ポルノ所持法違反」でも追起訴された。裁判長は判決文を読み上げた後、「あなたは自分の犯した重大な罪を認識していない」「通り一遍の謝罪は、誰の心にも響かなかった。取り返しのつかない重大な結果に真摯に向き合うべき」と厳しい言葉で説諭した。
判決公判を傍聴した山口さんは、悔しさを込めながらこう語る。
「降籏被告は法廷で、亡くなった方々の名前すら答えられず、あろうことかご遺族の前で『一日も早く社会復帰したい』と述べました。反省の気持ちなどまったく伝わりませんでした。事故はわざと起こしたんじゃない、それはわかります。
でも、私が許せないのは、事故直後、被告が救護活動をまったく行わなかったことです。自分のせいで大変なことが起こっているのに、車から降りようともせず、運転席で何かを探しているようなそぶりを見せていました。あの光景は、絶対に忘れることはできません」
↓生々しい事故直後の動画はコチラ
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