
「ハサミを刺したということはありません」
東京都中野区のタワーマンションの一室で、交際相手である公認会計士の男性Aさんの首にハサミを刺して死亡させたとして、傷害致死罪に問われている佐藤琴美被告(26)の初公判が11月7日、被告人質問が11月12日に東京地裁で、それぞれ行われた。
初公判で佐藤被告は涙ながらに、
「ハサミを刺したということはありません」
と無罪を主張した。
佐藤被告は黒のパンツスーツ姿に、厚いレンズのメガネをかけて入廷。メガネの奥の瞳に溢れた涙は今にもこぼれ落ちそうだった。緊張のためか呼吸も荒く、弁護人から「大丈夫? 落ち着いて」と言葉をかけられると静かにうなずき、着席した。
起訴状によると佐藤被告は’24年9月16日、中野区のマンションの一室で当時交際関係にあったAさんの左頸部にハサミを突き刺し、死亡させた疑いが持たれている。起訴内容について佐藤被告は、
「私が彼にハサミを刺したということはありません」
と声を震わせながら否認。続けて、
「ただ私が持ち出したハサミが彼に刺さって亡くなってしまったことは事実です。ご家族、ご友人の方には大変申し訳なく思います」
と深々と頭を下げ、謝罪した。
「事件当日、佐藤被告はAさんをハサミで刺した後に119番通報し、救急車を呼んでいます。その間、彼女はAさんの心臓マッサージをしていました。現場に駆け付けた警察官に殺人未遂で現行犯逮捕され、Aさんは搬送先の病院で死亡が確認されています。
逮捕時には『言うことを聞かせるためにハサミを持ち出し、振りかざしたら刺さった』といった趣旨の供述をしていましたが、初公判では無罪を主張しました」(全国紙社会部記者)
裁判では2人の出会いが明かされ、Aさんに秘密にしていた佐藤被告の“もう1つの顔”が明らかになっている。
検察側が読み上げた調書に沿って、事件の経緯をお伝えする。
佐藤被告とAさんは’24年1月にマッチングアプリで知り合い、2月から交際が始まった。Aさんは脱毛症に悩んでおり、普段はウィッグを付けて生活していたが、その事実を打ち明け、佐藤被告が受け入れたことで2人は関係を深めていった。
5月から、佐藤被告が飼っていた犬を連れて同居を開始。途中、脱毛症を理由に佐藤被告が別れを切り出したこともあったが、Aさんの説得により交際を継続。以来、佐藤被告がAさんとの関係で優位に立つようになった。
ケンカをすることもあったが、交際は順調で婚約など将来の話もするようになった。2匹目の犬を飼うことになり、7月に事件現場となるタワーマンションに引っ越した。
〈ウィッグのない写真をインスタグラムにアップする〉
だが、将来を見据え、ゴールインに向けて歩んでいたふたりの関係は些細な口論をきっかけに暗転する。
犯行当日の9月16日は祝日だったが、仕事の資料を取りに行くために日比谷にあるAさんの職場に2人で向かい、その帰り道で口論となった。不機嫌なAさんに対して佐藤被告は、
〈ウィッグのない写真(編集部注:ウィッグを装着していないAさんの姿の写った写真)をインスタグラムにアップする〉
と告げた。これにAさんが激怒。帰宅してからも怒りは収まらず、Aさんにソファーに座るように求めたが応じなかったため、佐藤被告はハサミを持ち出した。Aさんが佐藤被告の両手をつかんだことでもみ合いとなり、ハサミがAさんの首に刺さった――。
弁護士側の冒頭陳述では、佐藤被告がAさんに秘密にしていたもう1つの顔が語られた。
佐藤被告は山口県の高等専門学校を卒業後、就職のため’19年に上京。1年で退職し、大学進学を目指して予備校に通い始めるが、コロナ禍でリモート授業となり大学進学を諦めた。そこからホスト通いが始まったという。
しかし、すぐにホストの売掛金が払えなくなり、借金返済のためデリバリーヘルスで働くようになった。荒んだ生活の中、マッチングアプリで出会ったのがAさんだった。弁護人は、LINEでの仲睦まじいやり取りなどを紹介し、2人がケンカしながらも愛し合っていたことを強調した。
検察はハサミを振り下ろしたと主張し、弁護人はもみ合いの中で偶然ハサミ刺さったと主張。これが、今回の裁判の争点となっている。
11月12日に行われた被告人質問で、佐藤被告は警察の取り調べで「ハサミを振り上げた」と供述したことについて、
「事実ではありません」
と否定するのだった。
【後編】では、佐藤被告が、被告人質問で語ったAさんへの現在の思いや、無罪を主張する根拠について書いている。
【中野タワマン殺人・後編】「まだずっと彼が好き」恋人をハサミで刺し殺した女が主張した”無罪”