「息子のSOSを見逃してしまった…」 ”大阪高校生リンチ事件”被害者の母親が語った「後悔」

加害少年のCがA君に暴行を加える様子(加害少年らが撮影した動画より)

“スパーリング”と称した暴行

「事件が起きた後、私は息子の異変に気づいていたのに流してしまった。今でも後悔しています……」

今年6月、大阪市内の淀川の河川敷で10代の少年2人から複数回にわたって暴行を受けた男子高校生A君(15)の母親は、自らを戒めるように言葉を絞り出した。加害少年はA君の中学時代の同級生であり、友人だった――。

暴行事件は6月12日と15日の2回にわたって起きた。

まず12日、加害少年の一人であるBが18時過ぎに<Aしばきたいから来て欲しいわ>とA君にLINEを送って河川敷に呼び出す。20時過ぎにもう一人の加害少年Cと、その友人も合流。CがA君を何十発も殴り、Bは背後からA君を蹴った。

BとCはこの暴行を“スパーリング”と称し、2回目の“スパーリング”が終わった後に「3回目をやるか、金を払うか、川に入るのかどれや?」と詰め寄り、A君は制服を脱いで「川に入る」という選択をした。この一部始終をCの仲間がスマホで撮影していた。

3日後の15日に再びA君が呼び出される。この日もCが暴行を加えたが、12日とは別の友人を連れて来ていた。今回の事件にはBとCのほかに計3人の少年がギャラリーとして現場に居合わせていたのである。

『FRIDAY11月14・21日号』で既報の通り、A君は顔面打撲傷や左大腿打撲傷など、全治約3週間のケガを負い、大阪府警は9月30日、BとCを傷害と強要の疑いで書類送検した。A君の母親があらためて事件を振り返る(以下、「」内はA君の母親の発言)

「彼らと息子は中学のラグビー部の同級生で、以前から我が家がたまり場になっていて、事件が起きた後もBとCは平然と家に来ていました。夕飯の支度をしている時にも遊びに来ました。『あなたたちも食べる?』と聞いたら『食べる』と言うから、一緒に食卓を囲んだこともあるんです。

ただその時、息子だけがオドオドしていて、BとCに気を使っているように見えた。でも、友達と喧嘩をすることもあるし、友人関係だって浮き沈みがある。その程度のことかなと流してしまったんです」

A君は幼少期から発達障害があり、意思表示がうまくできないことでイジメに遭ったこともあるという。その都度、母親は間に入って解決を試みた。

「息子はずっと友達がいなかったので、私もあの子の友達を大切にしていたんです。BとCが少しヤンチャなのもわかってました。正直に言うと“彼らが息子をいじめっ子から守ってくれたら”と思うところはあった」

土下座するA君の頭を加害少年が踏みつける(加害少年らが撮影した動画より)

血のついた制服を……

異変は他にもあった。事件後、A君が全身にアザをつくり、足を引きずっていたのだ。それでも「ラグビーでケガをした」という嘘を信じた。壁伝いに歩く姿を見て心配になり、声もかけても、「大丈夫。うるさいから喋らんといて」と返された。それを思春期特有の反抗だと思い、それ以上、詮索しなかった。

だが、思わぬところから異変の正体が発覚した。BとCの友人が撮影していた暴行現場の動画が拡散。動画を見たA君の妹の友人から「お前の兄ちゃん、あのままだと殺されるよ」と連絡があったのだ。暴行事件から約10日後のことだった。

「息子は最初、BとCを庇っていました。『これは本当に命に関わることだから、すべてを話してほしい』と何度も説得して、ようやく『ずっと殴られ続けて、最終的には川に沈められた。本当に怖かった』と打ち明けてくれました」

A君の母親は、すぐに暴行現場にいた少年たちの家族と連絡を取った。翌日、動画を撮影していた少年Dとその母親が訪ねてきた。少年のスマホからは、A君が暴行される動画が複数見つかった。A君が「Dは止めてくれていた」と言っていた通り、動画には「やめてあげて」というDの声が入っていた。

「D君は『止めるなら帰れ』と言われたそうですが、自分が帰ったらAが殺されるかもしれないと思い、『ホンマにやめて』と訴え続けてくれたそうです。それでBとCは引き下がったと、息子も話していました」

その後、Dは淀川警察署に出頭し、12日に起きた暴行の一部始終について供述。A君と母親が被害届を提出した。

「私はシングルマザーで、仕事に追われる毎日でした。帰宅が遅いこともあり、ちゃんと子供の顔色を見てやれていなかった。その間に、息子はあんなことになって……。事件が起きた後、自分を責めました。どうしてこの子を守ってあげられなかったのか、と。親は子供を見ているようで、実はちゃんと見ていないんですね」

A君は母親を心配させまいと、血のついた制服や川の水で汚れた下着を自分で洗っていた。

「普段の息子は服なんて脱ぎっぱなしで、洗濯なんて絶対しません。どうしてこんなわかりやすいサインに気づいてやれなかったのか。私も私ですよね……」

子供の異変に気付かないのは、加害少年の親たちも同じ。「うちの子がそんなことをするわけがない」と言い放った親もいたという。

「親なら子供の言葉を真実だと思いたい。その気持ちはわかります。ただ、言葉の中にある異変に気づいてやらないといけない。私は息子が発したSOSを見逃してしまった。

息子は『ママに迷惑をかけたくなかった。ママは仕事で大変なのにそれ以上、つらい思いをさせたくなかった』と言いました。私はこう返しました。『それは違うよ。アンタがいなくなるのがママはつらい。アンタが傷つくのが一番つらい。だから、何でも言うてくれ』と」

自分のような思いをする人を少しでもなくしたい――A君の母親はそう祈るのだった。