
部屋から腐った臭いが……
東京都新宿区のマンションの浴室に男性の遺体を遺棄したとして死体遺棄罪に問われている梨本俊弘被告(31=逮捕時)の公判が11月10日、東京地裁で開かれた。
起訴状によると梨本被告は北誠一被告(30=逮捕時)と共謀し、男性の死体を遺棄した疑いが持たれている。この日は被告人質問が行われ、凄惨な事件現場の様子が語られた。
7月1日、〈腐った臭いがする〉と管理会社から110番通報があったことで事件は発覚した。
「通報を受け、駆け付けた署員によってブルーシートを被せられた男性の遺体が浴室で発見されました。遺体の頭部に複数の挫裂創があったことで捜査を開始。防犯カメラの映像などから北被告が浮上し、警察は7月2日に逮捕しました。
北被告は殺害した男性から現金約180万円や商品券などが入ったショルダーバッグを奪ったとして強盗殺人容疑で再逮捕されました。その北被告と防犯カメラに映っていたのが梨本被告でした。7月10日に逮捕された際、梨本被告は〈(北被告から)部屋の片付けを手伝ってほしいと頼まれ、断れなかった〉と供述しています」(全国紙社会部記者)
被告人質問では、梨本被告が北被告に対する恐怖心から犯罪に加担する過程が明かされた。
上下グレーのスウェット姿で長身の梨本被告は前髪を下ろし、黒縁メガネとマスクで顔を覆っていたため、表情をうかがうことはできなかった。
弁護人に今回の事件について問われると、
「北さんに関わったことは大変申し訳なく思います」
と謝罪。続けて、
「最初から警察に相談すればよかったと思います。周りに相談することが大切だったと思います」
と後悔の念を表した。梨本被告の判断を誤らせたのは、
「何を考えているのか分からないので怖かった」
という、北被告への恐怖心だった。
〈ヤバい仕事なんだけど〉
梨本被告と北被告は中学校の同級生で、卒業後も転職やカネの相談をしていた。梨本被告は経済的に困窮しており、’24年4月ごろにLINEで北被告に、
〈生活費が足りずおカネを貸してほしい〉
と50万円の借金をお願いしている。カネを借りることはできなかったが、6月23日になって北被告から〈新宿で仕事を手伝ってほしい。ヤバい仕事なんだけど〉とLINEメッセージを受け取った。詳細な内容を聞くためにLINE通話すると「死体を運んでほしい」とお願いされたという。
報酬は50万円。「貸すのではなくあげる」と言われたが、梨本被告は受け取りを拒否。ただ死体を運ぶことは了承した。その理由について、法廷でこう説明している。
「北さんは、(梨本被告が)妻子持ちで、自宅(の場所)を知っている。断りたかったが話を聞いた以上、何をされるか分からないと思い、手伝うことを了承するしかなかった」
翌6月24日、2人は量販店でブルーシート、キッチン用洗剤、大型のポリバケツ、台車などを購入。現場のマンションに向かった。リビングで北被告が「私がやったんだよね」と告白し、梨本被告は、
「ご遺体を殺害したのは北さんだと理解しました」
と引き下がれない状況に陥った。
北被告が梨本被告に説明した話によると、部屋で寝ていた被害男性を北被告が金属バットで何度も殴打したという。部屋の壁には血が飛び散っており、異臭が漂っていた。
北被告に案内されて浴室に向かうと、浴槽の横に座った状態で、顔だけが覆われていた遺体が放置されていた。北被告は運び出して埋めたいと提案したが、目立つため、梨本被告は過去の事件を参考に塩素系の薬品を使って溶かすことを提案。
被害男性は身長180㎝超と大柄で「重くて、硬直も始まっていた」と動かすことができなかった。その日は、梨本被告はリビングに飛び散った血を拭き取るなど掃除をして、北被告から現金10万円を受け取り帰宅した。
「急いで処理しなければ」
北被告から「手伝ってほしい」と頼まれ、6月27日に再び、マンションに行くことになった。到着すると強烈な腐敗臭が鼻を突いた。梨本被告は、
「廊下に漂うような臭いでエレベーターを降りてからも臭っていた。急いで処理しなければ、臭いを抑えなければ、と思った」
「持ち上げられなかったので切断するしかないと思ったが、日にちが経ち、臭いが酷くてそれもできなかった」
などと振り返った。それでも、なんとか臭いを防ごうと浴室のドアを養生テープで目張りしたという。だが結局、死体の処理をすることはできず、事件が発覚し逮捕に至った。
検察から「北被告の裁判でも正直に話すことを約束しますか?」と問われ、梨本被告は「はい。約束します」と答えた。罪を認め反省の弁を述べた梨本被告だが、検察は「隠匿対応は悪質。事実を認めているものの厳正な処罰が必要」として懲役1年を求刑した。
11月17日に判決公判が行われ、梨本被告には求刑通り懲役1年の執行猶予付き判決が下された。