ダイアン津田、CMで“日本一”の快挙 ただのイジられキャラじゃない、注目される「哀愁」の正体

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「OLIVE」のウェブCM

 お笑いコンビ・の津田篤宏が出演した三井住友銀行のスマホ口座「Olive」のウェブCMが「ACC TOKYO CREATIVITY
AWARDS」において、最高賞である「総務大臣賞/ACCグランプリ」を受賞した。【ラリー遠田/お笑い評論家】

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 この賞は名実ともに日本最大級のアワードとして広く認知されており、「総務大臣賞/ACCグランプリ」はクリエイティブ業界で活躍する関係者の大きな目標となっている。津田が中心的な役割を担った作品が受賞したことは、芸人としての枠を超えて、彼が「現代の広告表現に最も適したタレント」であることを象徴している。

津田

 津田は長年にわたってお笑いの世界で活動を続けてきたベテラン芸人だが、なぜかここ数年で急速にCMタレントとしての存在感を高めている。ユニクロ、サントリー、カカクコムなど多岐にわたる分野の一流企業のCMに起用されている。その理由は単なる人気や知名度の問題ではない。彼と同じぐらいの知名度の芸人の中にも、ここまで多数のCMに起用されている人はほとんどいない。彼が広告業界で引っ張りだこになっている理由は何なのか。

 津田という芸人のキャラクターを一言で表すなら「人間味の塊」である。彼は芸人でありながら、人間そのものをむき出しにして生きている。良く言えば、感情表現が豊かで常に笑ったり怒ったりしている。悪く言えば、感情を抑え込むことができない。彼がイライラして声を張り上げているとき、人は笑わずにはいられない。こういうキャラクターは、意図的に演技して作り出せるものではない。漫才をしているときにもテレビに出ているときにも、彼自身の本来の人間性が自然に表れている。広告業界で求められているのは、このように自然体で人間味があふれ出てくるタレントなのだ。

 だからといって彼に演技力がないわけではない。一般に、笑いを専門にしている芸人がCMなどに出演すると、与えられたセリフを読まされているような不自然さがにじみ出てしまいがちだ。しかし、CMにおける津田の振る舞いには無理がなく、演じていないようにすら見える。どんなセリフを言っても嘘っぽくならず、どんな表情をしても演出のにおいがしない。広告という作りものの世界の中に、彼は現実の生々しさを持ち込むことができる。そういう部分も評価されているのだろう。

同情されたら終わり

 津田の笑いの本質は「哀愁」である。彼が芸人仲間にイジられたり、理不尽な扱いを受けたりして、どんなにひどい目に遭っても、決してかわいそうな感じにはならず、哀愁のある面白さが出てくる。イジられキャラの芸人は同情されたら終わりだ。津田はどんなにこてんぱんにされても、本人のキャラクターの魅力でそれを帳消しにすることができる。それは彼にしかない強みである。

 CMにおいて重要なのは、限られた時間で企業のメッセージを伝えることだ。津田の人間味の部分は短い時間でもすぐに伝達可能である。そういう要素を持っているからこそ、彼は広告業界で注目の的になっているのだ。

 年齢を重ねたことで、彼の「哀愁」にもますます深みが出てきた。それもCM起用への追い風になっているのだろう。彼の素材としての魅力が衰えない限り、今後もこのような仕事はどんどん増えていくはずだ。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり
〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論
ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部