無免許で医療行為をした疑いで男が先週、逮捕された事件。
医師になりすました男は一体、何者なのか…。
取材を進めると、その「人物像」と、事件の背景にある「原因」が見えてきた。
■容疑者が代表の“研究所”「がんワクチン」開発に成功と主張
クリニック運営法人代表理事:もう許せないですね。無資格で医師免許ないのに、患者さんに医療行為してたことが許せないです。
こう話すのは、大阪市内のクリニックの運営法人の代表理事。4日、警察に詐欺罪で被害届けを出す相談に訪れた。
10月30日、医師になりすましていた疑いがあるのは先週、大阪府警に逮捕された男(66)。
容疑者の男とは一体、何者なのか。
容疑者のYouTubeより:がんは今や2人に1人の病気です。ですが、がんワクチンを利用することによって、皆さん方ががんにならない世界がやってくる。
これは容疑者の男が代表を務める、がんの研究を行っているとする会社「エトセル研究所」のYouTubeチャンネルにアップされた動画。
開発に成功したという「がんワクチン」の効果を雄弁に語り、それに出資を募る男の姿が映し出されている。
さらに“研究所”のホームページにはこのような記載がある。
「特許が認められました」
「がん研究所を立ち上げ44年になります。弊社は、人への治験と並行し、育毛事業も展開していきます」
「2人の医師と共に、40年以上がんの研究を行っている」とする会社があるとされるオフィスビルに取材班が行くと…
記者リポート:こちらのビルに研究所があったのですが、すでに名前がなくなっています。

■容疑者の男とみられる動画「私の声は“がんを予防する”」
さらに取材を進めると、容疑者の男とみられる別のYouTubeの投稿にもたどり着いた。苗字は「鈴木」と名乗っている。
容疑者の男と見られるYouTubeより:がん封じ神社。私の声は“がんを予防する声”とも言われています。
見えてきた、がん治療に対する強い執着。
容疑者の男はいつから医師になりすましていたのか。

■少なくとも8年前から「医師」名乗る 「水晶で念力を高める…」
取材班は、2017年ごろに容疑者の男と旅行先で知り合ったという男性に、独自に接触することができた。
容疑者の知人:南米を中心にして南極までいったピースボートという107日間の船で知り合いました。『医者で京都大学の医学部を卒業した』と言ってましたね。『がんに効く免疫』というようなことをいってたような。
少なくとも8年ほど前から、「医師」と名乗っていた容疑者の男。
旅行中の“ある行動”が、印象に残っているということだ。
容疑者の知人:水晶か何かの玉を持っていて、それをなでながら、集中力を高める、念力を高めるというような事をやってましたね。そうするとパワーがあがる。多いときだと30~50人集まってましたかね。
■京大医学部卒、京大病院に35年間勤務と履歴書に記載も「ただのおっさん」と警察
2024年8月にクリニックで面接を受け、採用されたという容疑者の男。
運営法人は一体なぜ、医師として採用してしまったのか。今回、実際に面接を行った法人の代表が、「newsランナー」の取材に応じた。
(Q.容疑者は免許持った医師だと?)
クリニックの運営法人 政岡憲昭代表理事:と思ってまして。警察の取り調べの時にも、『失効したとかじゃないんですか?』って聞いたんですけど、警察から『もともと(医師免許)ない、ただのおっさんやで』と言われて。
(去年の)8月6日午後1時に、ここで面接したんですけど。彼が持ってきたのは、履歴書と運転免許証の2つ。
容疑者の男が実際に提出したという履歴書には「京都大学医学部を卒業」した後、「京都大学の病院で35年間勤務」していたと書かれている。

■医師免許の提出を再三求めるも拒み続けた容疑者 厚労省のデータベースに名前なし
一方で、医師免許の確認を求めるとこう話したということだ。
クリニックの運営法人 政岡憲昭代表理事:『どうも紛失したみたいだ』という説明がありまして。
(Q.なくした理由は?)
クリニックの運営法人 政岡憲昭代表理事:『引っ越しの時にダンボールに大事な書類を入れてたら、そのダンボールを引っ越し業者がなくした』って。
その後、再三提出を求めたが様々な理由で拒み続けた。
また、厚生労働省のデータベースを調べると、容疑者の男の名前は出てこなかったという。
(Q.不審に思わなかった?)
クリニックの運営法人 政岡憲昭代表理事:(データが)出ない先生もおるんでね。先生(容疑者)も出ないんだなと。何人か、ここで勤めてた先生でも、出なかった先生がいたんで」
取材で見えてきたのは、容疑者の男に疑いの目を向けるチャンスが何度もあったという事実。
結局、2025年4月に身分の確認ができないとして退職となったが、2024年9月から8カ月間、169人の診療を行ったということだ。

■履歴書の特技には“外科オペ” 「本業なので、特技とは言わない」と医師が指摘
全国医師連盟の榎木代表は、事件の背景にある根本的な原因について、こう指摘する。
全国医師連盟代表 榎木英介医師:これが私の医師免許になるんですけども。紙でできた表彰状みたいになっていまして。
ネット上にデータがあったので、それをコピーして、偽造しちゃったっていう事例もあったりしたので、非常にたやすいというか、偽造しやすいものですよね。
近年は厚生労働省で、確認システムみたいのができまして、厳格化しようという方向ではありますが、それも必須ではない。
クリニックに提出された容疑者の履歴書を見てもらうと…
榎木医師:“京都大学医学部付属病院入社”とか“京都大学医学部付属病院退社”と書かれているが、我々だったら“入職”ぐらいかなと思うんですよね。会社じゃないので。不自然な所が色々あるなという感じですね。
1984年3月に医師免許取得となっていますけど、発表は4月とか5月なんですよね。その当時は。
(特技の欄に)こんな“外科オペ”なんていうことは、あんまり書かない。特技で書かない。むしろ本業なので、特技ということは言わないんじゃないかな。
履歴書自体に多くの不自然な点が存在していた。

■採用した医療法人「疑ってかかっていれば…」と後悔
事件を受けて、容疑者の男を採用した法人の代表は後悔を口にする。
クリニックの運営法人 政岡憲昭代表理事:言い訳になるかも分からない。今からであれば、疑ってかかって、免許があるかないかというところからスタートすれば、『あれ、おかしいな』と思ったと思う。責任というのは、かなり重いものだとは認識しています。
調べに対し、容疑者の男は容疑を否認しているが、警察は容疑者が他のクリニックでも医師として勤務していた疑いがあるとみて捜査を続けている。
(関西テレビ「newsランナー」2025年11月4日放送)
