「家族・友人へ。私は詐欺組織から脱出し、今プノンペンの日本大使館にいます」
カンボジア南部シアヌークビルの詐欺拠点から命懸けで脱出した日本人男性がSNSに投稿したメッセージ。男性は中国系詐欺グループの拠点で、日本人をターゲットにした詐欺に関与させられていた。シアヌークビルは詐欺拠点が点在する都市として国際的に有名となり、2023年には日本人19人が拘束された。詐欺組織の実態を調べるため、記者は現地に向かった。
リゾート地で目立つ中国語の看板
首都プノンペンから車で3時間、港湾都市のシアヌークビルに到着した。
男性は金を借りていた知人らに日本で拉致された後、強制的にカンボジアに連れて行かれ、シアヌークビルで詐欺を強要されたという。

高速道路を降り、高台から街を見渡すと、高層ビル群が視界に飛び込んできた。
この街は、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の要衝として、2010年代後半に不動産の開発ラッシュが続いた。
リゾート地としても知られ、ビーチは地元の家族連れで賑わう。

夜になるとカジノや高級ホテルのネオンがきらめき、現地のクメール語よりも中国語の看板が目立っていて、「ここは中国か」と思わせるほどだ。

廃墟だらけの港湾都市
しかし、日中に街を改めて観察すると、建設途中とみられる建物が至るところに放置されていた。
2020年の新型コロナ流行や中国経済の減速で投資が止まり、中国企業が撤退。未完成の建物は360棟以上にものぼるという。

生活が苦しいのか、中にはビルの骨組みで生活している人たちの姿もあった。
また、地元のショッピングモールを訪れると、日曜日にもかかわらず客は数えるほどしかいなかった。4階建ての2階以上は、ほとんどのシャッターが閉まり、「テナント募集中」の張り紙が目立つ。
「景気は落ち込んでるよ。さびれてる」
モール前にいた三輪タクシー運転手は吐き捨てるように言った。