『鬼滅の刃』『チェンソーマン』といった日本のアニメが世界的なヒットを記録している。国際的な人気は今に始まったことではなく、1990年に放送を開始したテレビアニメ『楽しいムーミン一家』はムーミンの本国フィンランドでも大ヒット。ムーミン誕生80周年の今年は、同アニメの音楽をオーケストラで演奏するコンサートが首都ヘルシンキで開催される。その公演に招待されて主題歌を歌唱する白鳥英美子に56年に及ぶキャリアを5回にわたって振り返ってもらう。
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「20年ほど前にBSの特番の企画でフィンランドを訪問したことがありますが、現地で歌うのは今回が初めて。どんなステージになるか、今から楽しみにしています」
そう語る白鳥英美子は1990年から2年間、テレビ東京系で放送された『楽しいムーミン一家』のオープニングテーマとエンディングテーマの作詞と歌唱を担当した。作曲は夫の白鳥澄夫で、逆輸入の形でアニメを放送したフィンランドでは、澄夫が手がけた劇中音楽も人気を集めている。
「夫の音楽を聴いて育った子供たちが大人になって、エレキギターでムーミンの曲を演奏しているんです。初めて聴いたときは『こういう解釈もあるのか』と驚きました」
フィンランドといえばヘヴィメタルの聖地。ジャンルも国境も超えて白鳥夫妻の音楽が愛されてきたことが、今回のコンサート『Sumio Shiratiri’s MOOMIN MUSIC』の開催に繋がった。ムーミン誕生から80年の節目にあたる今年は6月に澄夫自身が選曲した音楽集『楽しいムーミン一家 オリジナル・サウンドトラックベスト』が全世界で配信を開始。
フィンランドでも大人気！白鳥夫妻の楽曲とコンサート裏話
11月25日と30日に首都ヘルシンキのミュージックセンターで開催されるコンサートのチケットは即完売で、反響を受けて来年2月からフィンランド全国ツアーが行われることも決定した。
「長い時を経ても風化しない、ムーミンの音楽に携わることができて光栄に思っています」と語る英美子は神奈川県横須賀市出身。日本音楽高等学校に進学後、渡辺プロダクションが経営する銀座のライブスポット「メイツ」で歌い始める。
「メイツのメインステージでは毎晩、ザ・ピーナッツさん、梓みちよさん、布施明さんらスターの皆さんが歌っていらっしゃいました。私は自分の出番になると、カウンターの手前にある小さなステージでギターの弾き語りをしていたんです。学校には内緒でしたが、いたってマジメな学生でしたよ（笑）」
白鳥英美子と芥川澄夫「トワ・エ・モワ」誕生秘話
そのメイツで美声を響かせつつ、メインステージの司会を務めていた人物がいる。そう、のちに「トワ・エ・モワ」としてデュオを組むことになる芥川澄夫だ。
「芥川さんは熱唱型でスタンダードソングを、私は『ドンナ・ドンナ』のようなフォークソングを歌っていました。年齢は芥川さんが２つ上ですが、すごく大人に見えて、自分とは違う世界の人だと思っていたので、会話をすることもほとんどなかったんですよね」
そんな２人がなぜユニットを結成することになったのか。
「メイツに出入りしていたレコード会社の方が、渡辺プロの渡辺晋社長に『あの２人が一緒に歌ったらいいんじゃないか』とおっしゃったらしくて。身長のバランスがいいという理由だったようですが（笑）、社長に呼ばれて『組んでみる気はないか』と言われました。お互いにまったく想像していなかったことで、2人とも『それはちょっと･･･』とお断りしたんですけど、『とにかく一緒に歌ってみなさい。それで判断するから』と」
後日行われたオーディションでは、あえて売れそうもない洋楽を選んだそうだが、社長は「いいじゃないか」と即決。あれよあれよと話が進み、2人はフランス語で“あなたと私”を意味する、「トワ・エ・モワ」という名称でデビューすることになる。
「ユニット名は、芥川さんについていたプロデューサーの行きつけだったスナックの名前に由来しています。初めて聞いたときはしっくりこなかったんですけど、段々馴染んでいきましたね」
→第2回に続く
（濱口英樹）
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🔳白鳥英美子（しらとり・えみこ）1950年生まれ。69年、芥川澄夫と「トワ・エ・モワ」を結成し「或る日突然」でデビュー。ヒットを連発し、NHK紅白歌合戦にも2回出場。解散後はユニット「鴉鷺（あろ）」を経て、ソロ活動を開始。「アメイジング・グレイス」、ゲーム『ファイナルファンタジーⅨ』主題歌「Melodies Of Life」などがヒット。クラシック、アニソン、童謡などジャンルを超えた音楽活動を展開する一方、ナレーションやエッセイなど多方面で才能を発揮。現在、55周年を記念した『白鳥英美子ベスト～ミュージック・オブ・ファンタジー』が好評発売中。
