見取り図 森山晋太郎さん(39歳)
今月、初エッセー「しばけるもんならしばきたい」を刊行して話題の芸人、盛山晋太郎さん。ブレークするまでのバイト地獄を語ってくれた。
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20代は恐ろしいくらいにバイトをしていました。日雇いも含めると20種類くらい。お寿司屋さんのデリバリー、キャバクラのボーイ、ダイニングバー、スーパー。いろんなところに勤めては失敗していました。
キャバクラではシャンパンタワーみたいなお酒が入ったグラスの山をひっくり返したこともあります。弁償できないのでさすがに勘弁してもらいました。
ダーツバーではおじさんのお客さんをダーツで接待しないといけない。店長からは「気持ちよく勝たせてあげて」と言われていたのに、ダーツブル(ボードの中心)に3回入れちゃったんですよ。ハットトリックです。今までそんなことできなかったのに。それで常連客を逃してしまったり。
食べ物屋さんは中華料理屋、定食屋などいろいろと。うどん屋さんでは料理人として入ったら左利きというだけでクビになりました。「おまえ左利きかい! なんでおまえのために調理器具を左利き用一式揃えなあかんねん」と。クビにタトゥーが入った怖い店長でした。
でも、クビになって辞めたことは案外少ないんです。芸人同士のつながりでバイトを紹介してもらったりするので。芸人にとっての優先事項は時給より「融通」です。急に芸人の仕事が入っても融通が利いて休めるバイト。それか仕事の時間に影響がない夜中の仕事になっちゃうんですよね。でも、夜職は同じ仕事が続くと「水商売のにおいが染みつくからやめといたほうがええ」と昔からよく聞きますよね。それもあって転々としていました。
バイトじゃないですけど、犬の散歩でご飯食べさせてもらったこともあります。若手の時によく行った喫茶店に常連のおばあさんがいて、レトリバーくらいに大きな犬を飼っていて、「自分は足腰が悪いから散歩させてくれたら定食をごちそうしてあげる」と。それで何度か散歩させて定食を食べさせてもらいました。僕、犬が好きだったんでちゃんと散歩させましたけど、1時間散歩させて定食1回って割に合わないんじゃないかと(笑)。
貧乏ピーク時、通いでトランクルームに住んだことも
スーパー銭湯では夜中の2時から清掃のバイトをやりました。そんな時間から働くのがしんどくて、勝手に水風呂入って目を覚まさせてから清掃を始めていました。
インターネットのサービスについてのテレアポもやっていました。マニュアルがあるんですけど、正直あまり理解できなくて。こう聞かれたらこう答えるなどのガイドラインがあるのに、電話中にわからなくなり、「すみません。このシステムは自分でもちょっとわからないんですけど、お得みたいなので、契約していただけるかどうかだけお伺いしていいですか」と聞いたことがありました。すると、「おまえ、なめてんのか!」と怒鳴られました。
僕は失敗が多くて「メモを取れ」とよく言われてましたが、書いた字が汚くて読めなかったり、そもそもメモをどこに置いたかわからなくなったりで。
ゲームセンターでも働きました。小さいゲーセンなので、僕が預かったカギで10時に開店させて昼過ぎまで1人でいるんですけど、寝坊して昼の2時まで寝ていた日がありました。店長は店が営業していると思っているわけですから、これって業務妨害ですかね。僕が経営者だったらこんなバイトはしばきたいです。
一番お金がよかったのは、やっぱりキャバクラのボーイかな。夜中の労働ですから。でも、大阪の郊外の店だったので、時給は1300円か1400円でしたよ。
借金があったので本当に貧乏でしたね。たばこが好きなので、シケモクを拾って吸っていました。大阪はありがたいことにシケモクがよく落ちていて、今まででワンカートン以上は拾ったんじゃないですかね。いい町の吸い殻は長め。でも、僕はお店の吸い殻には手を出さなかった。なんのプライドやねんと(笑)。道端のシケモクを拾うと町が奇麗になっているという大義名分が成り立つかなと。でも、しょっちゅうではなく、貧乏のピーク時の話です。
ピーク時はトランクルームに住んだこともあります。といっても、通いでたまに居ただけです。テレビでこの話をしたら叱られまして。住んではいけないわけですからね。でも、間違いなく住んでいる人はいました。扉に隙間がちょっとあってチラッと見たら洗濯物干してありましたから。
33歳で借金を完済し、体の大きなしこりを除去した感じ
借金があって地獄の日々でした。2018年にM-1グランプリ決勝に出て忙しくなり、翌年の33歳くらいで借金を完済した時には体の大きなしこりを除去した感じです。すごく自信になりました。それから6年経って「もしあの頃のバイト生活が今も続いていたら、自分はいったいどうなってしまっただろう」と思うと怖くなります。なかなか社会に適応できない人間だったので、想像するとゾッとします。
いろんな失敗や近年の出来事などを書いて連載させてもらったものが本になりました。
多くの人に楽しんで読んでほしい。連載は書くのがつらい時もあり、終わった時は二度と文章を書くことはないと思いましたが、また熱いサウナに入りたくなるみたいに、エッセーを書いてみたくなっています。エッセーの意味はまだよくわからないんですが(笑)。
(聞き手=松野大介)
▽盛山晋太郎(もりやま・しんたろう)1986年1月、大阪府出身。リリーとのお笑いコンビ見取り図で「M-1グランプリ2018」から3年連続で決勝進出し、人気に。「見取り図の間取り図ミステリー」「見取り図じゃん」などレギュラー番組多数。
◇初エッセー「しばけるもんならしばきたい」(幻冬舎)発売中。