
日本版「DOGE」はうまくいくのか(左から高市早苗・首相、イーロン・マスク氏/時事通信フォト)
始動したばかりの政権が、いきなり永田町・霞が関を揺るがす全面戦争の口火を切った。積極財政を掲げる高市早苗・首相は最大の障壁となる財務省を中心とした“増税マフィア”に閣僚人事などで正面から戦いを挑んだ。財務省サイドも水面下で反撃の準備を着々と進めている。政権発足早々事態は風雲急を告げている。【全4回の第4回。第1回から読む】
日本版政府効率化省は「両刃の剣」
自民党と日本維新の会の連立合意文書には次の一文が盛り込まれている。
〈租税特別措置および高額補助金について総点検を行い、政策効果の低いものは廃止する。そのための事務を行う主体として政府効率化局(仮称)を設置する〉
米国ではトランプ大統領が政府効率化省(DOGE)を設立し、イーロン・マスク氏をトップに据えて各省庁の予算を大幅に削減、公務員の大量首切りを行なったことはよく知られている。その日本版をつくり、租税特別措置(租特)、つまり各業界への税制優遇や無駄な補助金に大鉈を振るおうというのだ。財務省を長く取材してきた元東京・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が説明する。
「租特は企業が研究開発や設備投資をすれば税金をまけてやるといった制度で、各業界に細かな税制優遇措置が決められている。いわば財務省が大企業に与えるアメです。この特典で財務省は大企業、財界を味方につけてきた。租特に切り込めば、財務省には大ダメージになる」
そして、財務省がとくに注目しているのがこの日本版DOGEの設立だ。
維新にすれば、大企業への税制優遇や各省庁の高額補助金を総点検し、廃止していけば「身を切る改革」のアピールになる。
高市首相が財務省潰しの強力な武器と位置づけて維新とともに強力に推進すれば、財務省はそれに備えなければならない。
だが、首相にとって日本版DOGEは「両刃の剣」でもある。いってみれば租税特別措置(租特)も補助金も企業へのバラマキであり、自民党の「カネと票」に直結している。
年末の税制改正の時期にかけて、国会議員会館には税制優遇措置の延長や新設を求める各業界の代表が押し寄せ、自民党議員の事務所を回って陳情を重ねる光景は永田町の“風物詩”だ。自民党はそうした陳情を翌年度の税制改正に反映させることで、業界から献金や選挙支援を得てきた。
租特や補助金は財務省の権益というだけでなく、自民党にとっても大きな政治利権なのだ。
もし、高市首相が維新とともに官邸主導で廃止していけば、自民党の支持基盤を潰すことになる。自民党や財界、霞が関を挙げての激しい反発が起き、政権基盤が危うくなる可能性さえある。
財務省はむしろそうなれば好機と見ている。
「財務省は税制優遇を縮小すれば税収が増えるし、本音ではコロナ対策名目で肥大化した各省の補助金も減らしたいが、これまでは自民党が反対するからできなかった。租特や補助金を大幅に削減すれば財務省より自民党のほうが多くの血を流すことになる。それを覚悟のうえで官邸がやってくれるというなら大歓迎だ。自民党や業界の恨みは財務省ではなく、高市総理と維新に向かう」(財務省OB)
財務省へ積極財政の見解を求めたところ「日本の財政の国際的信認が失われることのないように、経済と財政の健全化の両立を図ってまいりたい」との回答だった。
高市氏が租特や高額補助金の廃止に踏み込んできたら、財務省は逆に自民党議員たちに「業界への税制優遇や補助金を削って選挙基盤を失うか、それとも高市首相のクビを差し出すか」と迫るつもりなのだ。
そうした抵抗をはねのけて、掲げてきた減税や積極財政を実現させるのか、早期退陣に追い込まれるのか。新政権は早くも重大局面を迎えている。
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※週刊ポスト2025年11月7・14日号