「ビール業界」に大きな変化が…?『アサヒスーパードライ』一強時代の終焉と次に来る「定番商品」

競争の激しいビール業界。業界1位のアサヒには逆風が吹いているが…。

業界勢力図が大変動!

約40年にわたって業界の王者に君臨してきたアサヒビールの牙城が、少しずつ崩れ始めている――。今年の秋に巻き起こったビール業界の熾烈な新商品攻勢は、そんな予感を市場にもたらしている。

9月末、アサヒグループホールディングスが『Qilin(キリン)』と名乗る犯罪集団からのランサムウェア攻撃を受け、物流システム全般を停止した。これにより、商品の受注や出荷が大きく滞り、市場では『アサヒスーパードライ』をはじめとするアサヒ商品の品薄が続く異常事態が発生。一部はFAXなどを用いて手作業で受注や出荷を再開しているが、現在も完全復旧には至っていないという(10月28日時点)。

業界のトップリーダーが大打撃を受けているなか、2番手のキリンビールは10月7日に社運を賭けた新商品『キリングッドエール』を発売。ロングセラーである『キリン一番搾り生ビール』、そして若年層を中心に人気を集めている『キリンビール 晴れ風』の二枚看板に続く「第三の定番」として期待がかかっている。

業界2番手のキリンビールが打ち出したこの新商品を、ビアジャーナリストのMJ氏が解説する。

「発売からわずか8日で年間販売目標だった60万ケースを突破し、キリンは目標を90万ケースに上方修正しました。あえて当初の目標を低めに設定し、早々に達成したと喧伝することで、『ロケットスタート』を印象づけるマーケティング戦略なのでしょう。どんな手を使ってでも『グッドエール』を売っていこうというキリンの本気度が窺えます」

無論、味わいも申し分ない。油分が多く、通常の醸造設備では取り扱うことが困難な「クライオホップ」を惜しみなく使用し、350㎖缶で200円台ながら500円以上するクラフトビールにも引けを取らない仕上がりを実現している。飲料専門家の江沢貴弘氏が話す。

「日本のビールは下面発酵(5度前後の低温での発酵)で作られるクリアでキレのあるラガービールが多数派ですが、『グッドエール』は上面発酵(常温〜やや高温での発酵)で作られる芳醇で香り高いエールビール。

通常のエールビールから感じ取れるフルーティなシトラス系の香りに加え、みかんやびわのような和の果物の香りの余韻が残る。それに加え、キレもあるので飲み疲れしません。CMに出演している綾瀬はるかさん(40)の『名作の予感です』という言葉にも頷けます。

’26年10月にビール系飲料の酒税が統一される影響で、ビール需要が高まることが予想され、各社は『アサヒスーパードライ』に続く新たな定番を探っています。キリンは、『グッドエール』にその役割を期待しているのかもしれません」

キリンビールは4月にも新商品『キリン一番搾り ホワイトビール』を発売している。アサヒビールからの王座奪還を本気で狙っているのだろう。

『グッドエール』のCMには綾瀬はるか(40)ら俳優陣が集結。写真はキリンビールHPより
『キリン一番搾り ホワイトビール』のCMには俳優の小芝風花(28)が出演している。写真はキリンビールHPより

一方、高級路線の『ザ・プレミアム・モルツ』を主力商品とする業界3番手のサントリーは、’23年に新たなスタンダード商品『サントリー生ビール』を市場へ投入するも、大きなヒットを生むことはできていない。

今秋の新商品も、キリンビールの『グッドエール』のような新ブランドはなく、『ザ・プレミアム・モルツ 甘美なコク』(10月21日より数量限定発売)、『ザ・プレミアム・モルツ 優美な余韻』(11月18日より数量限定発売)といった既存ブランドの横展開が目立つ。

本記事では紹介していないビールメーカーであるサントリーやサッポロのビールに関する戦略について語った後編記事はコチラ

『FRIDAY』2025年11月14・21日合併号より