「どっちでもできる女中」“攻めすぎ”セリフにみた、髙石あかり『ばけばけ』スタッフの“覚悟と度胸”

NHK朝ドラ『ばけばけ』ヒロインの髙石あかり

台本を読んだ佐野史郎は「これは攻めたね」

朝ドラ『ばけばけ』が今、風雲急を告げている。

髙石あかり(22)演じるヒロイン・トキと、ヘブン先生(トミー・バストウ、34)が結ばれるきっかけが「ラシャメン」、つまり“異人の妾(めかけ)”であったことが明らかになり、視聴者から、

〈『ばけばけ』攻めすぎ〉

〈観るのが辛い〉

といった声が寄せられているのだ。

本作は、明治時代の島根県・松江を舞台に怪奇文学作品集『怪談』などで知られる小泉八雲の妻・セツの目を通して、江戸から明治へ変貌を遂げる時代を生き抜いた夫婦の物語を描く波乱万丈伝。

第6週に入り、ヘブン先生はこれまでながらく逗留していた花田旅館に腹を立て、借家に移りたいと通訳の錦織(吉沢亮・31)に訴える。物語はここから急展開を見せる。

報告を受けた江藤知事(佐野史郎・70)は、ヘブン先生の借家住まいを許可。ただし、一人暮らしでは何かと不便だろうと気を利かせて、身の回りの世話をする女中をつけるよう指示する。しかも、

「どっちでもできる女中がいいわね」

と、何食わぬ顔をして呟くのだ。

「どっちでもと言いますと」

そう尋ねても黙っている江藤知事に、思わずため息をついてしまう錦織。このやり取りで視聴者は“どっちでもできる”の意味を理解する。

「“どっちでもできる”とは、つまり『ラシャメン』を探せということ。当時横浜などでは、日本に来た西洋人の世話をする『ラシャメン』がいたことは歴史的な事実。

『ばけばけ』では遊女のなみ(さとうほなみ・36)が自ら志願するシーンが描かれました。その際、異人に身をまかせる『ラシャメン』はまわりから蔑まれ、石を投げられ、耐えきれずに身を投げたと遊女・なみの口から語られています。

台本を読んだ佐野史郎さんは『これは攻めたね』と驚いたものの、八雲研究家でもある彼は『今までみんな知ってたけど、隠してきたことだよ』とも話していました」(制作会社ディレクター)

舞台挨拶で笑顔をみせる髙石あかり

江戸家老の娘が物乞いをするほどの没落士族

制作統括の橋爪國臣氏の胸の内を、制作会社プロデューサーが明かす。

「没落士族をはじめ、明治時代を生きる人たちはどんな苦労があっても生きていかなければならない。その生き様を描くことは、このドラマのテーマを伝える上で最も大切なこと。そう考えた橋爪氏は、八雲の曾孫に当たる小泉凡さんに許可を求めました。

すると凡さんも『資料を見る限りそうだと思う。その重要性は理解できるのでぜひ描いてください』と、制作陣の背中を押しています。史実に正面から向き合った覚悟の詰まった第6週。見事です」

第7週に入ると、トキ(髙石)は「ラシャメン」になる覚悟を決め、恐怖と緊張に怯えながらヘブン先生のもとへ通う。あわや“艶シーン”になるかと思われる場面も度々登場して、視聴者もハラハラドキドキ。

ところが、トキの家族が怒り狂って乗り込んできたことで、ヘブン先生は「ラシャメン」ではなく、純粋に「家政婦」としてトキを雇っていたことが明らかになり、トキもほっと胸をなでおろす。

そして迎えた第35話。育ての親・フミ(池脇千鶴・43)は自分ではなく、産みの親・タエ(北川景子・39)のために娘が“自分を売る”覚悟をしたことにショックを受ける。そんなフミを見てトキは、

「家族の誰が物乞いになってもラシャメンになっていた」

と声を大にして言うのだった。

さらに、タエを助けるために渡したおカネを返そうとする三之丞(板垣李光人・23)に向かって、

「私を見て。自分を捨てたの。自分を捨てて、家族のためにラシャメンになろうとしたの。おば(タエ)さまをお救いしたいのなら、自分を捨ててこれをもらって!!」

と啖呵を切る鬼気迫るシーンは、第7週の神場面となった。

「トキのモデルである小泉セツの母・チエは実際に物乞いになっていました。実話なのです。チエは30人の奉公人にかしずかれる江戸家老の家系に生まれ、“御家中一の器量好し”と言われたいわばスーパーお嬢様。そんなチエの想像を絶する実話があるからこそ、トキの想いが胸に迫ってくる」(前出・プロデューサー)

史実から逃げず、真っすぐに向き合う。制作陣の覚悟によって、2人が力を合わせて作り上げる数々の怪談話がより尊く見えてくる。“攻めすぎ”という声が上がる今作を、これからも固唾をのんで見守っていきたい――。