
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』(公式HPより)
フジテレビの『土曜プレミアム』に異変が起きている。フジにとってほぼ唯一の特番枠だったにもかかわらず、映画を放送するケースが増えているのだ。その狙いや一連の騒動の影響についてコラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
* * *
22日と29日の夜、フジテレビの特番枠『土曜プレミアム』(21時~23時10分)で映画『テルマエ・ロマエ』『テルマエ・ロマエⅡ』が2週連続で放送されます。
両作は2012年と2014年に公開された10年以上前の映画であり、はっきりとした番宣の要素も見られず、なぜ今放送されるのか……という疑問が浮上します。
実は今年の『土曜プレミアム』は43回中18回が映画を放送していました。約42%が映画であり、その割合を半分近くまで増やしていたのです。
『土曜プレミアム』(当初の名称は『プレミアムステージ』)は2003年10月スタートの特番枠ですが、それ以前の同時間帯は映画枠の『ゴールデンシアター』(2001~2003年)、『ゴールデン洋画劇場』(1981~2001年)が約22年間にわたって放送されていました。30代以上の人は高島忠夫さんが番組の顔として映画解説を務めていたことを覚えているのではないでしょうか。
今年の放送内容をあらためて調べると、そんな『ゴールデン洋画劇場』『ゴールデンシアター』への回帰を思わせるところがありました。ほぼ唯一の特番枠として貴重な存在だった『土曜プレミアム』に何が起きているのか。そして、一連の騒動との関連はあるのかなどを掘り下げていきます。
3月末以降、過去作の本数がアップ
まず今年『土曜プレミアム』で放送された映画をあげていきましょう。
1月4日『ミステリと言う勿れ』(2023年公開)
1月18日『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 運命』(2023年公開)
1月25日『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 決戦』(2023年公開)
2月8日『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』(2023年公開)
3月29日『謎解きはディナーのあとで』(2013年公開)
5月3日『ジュラシック・ワールド』(2015年公開)
5月10日『ジュラシック・ワールド/炎の王国』(2018年公開)
6月7日『信長協奏曲』(2016年公開)
6月28日『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編 特別放送』(2020年公開)
7月12日『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(2023年公開)
7月19日『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(2022年公開)
9月13日『容疑者Xの献身』(2008年公開)
9月20日『沈黙のパレード』(2022年公開)
10月4日『真夏の方程式』(2013年公開)
10月25日『塔の上のラプンツェル』(2011年公開)
11月1日『劇場版ラジエーションハウス』(2022年公開)
11月22日『テルマエ・ロマエ』(2012年公開)
11月29日『テルマエ・ロマエⅡ』(2014年公開)
1・2月は2023年公開の映画を放送していましたが、3月末以降は10年以上前の作品が増えるなど、新作重視の方針から過去の名作を含めて映画の割合を増やしている様子がうかがえます。なかでも中心は7作が放送されたフジテレビドラマの劇場版。経費や労力の面でコスパがいいからか積極的に編成されています。
もう1つ気になるのは放送間隔。『沈黙のパレード』は1年半前に同じ『土曜プレミアム』で放送されたばかりであり、『劇場版ラジエーションハウス』も2年前に放送。『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』は約4年間で3度目の放送であり、『塔の上のラプンツェル』は日本テレビの『金曜ロードショー』で昨年10月に放送されたばかりでした。放送間隔はあまり気にせず、視聴率を獲得できそうな作品を選んでいる傾向が見られます。

映画『テルマエ・ロマエ』主演の阿部寛(番組公式HPより)
アーカイブの活用で制作費を抑制
次に映画以外の特番を見ると、目立つのはアーカイブ映像を生かした特番。
4月5日の『特別編集版「ワンピース」エッグヘッド編&再開1話目~』、5月31日の『世にも奇妙な物語35周年SP~伝説の名作 一夜限りの復活編~』、8月16日の『ほんとにあった怖い話 夏の特別編2025』(過去作6本・新作1本)は過去の作品を再編集や再放送したものでした。
また、2月22日と6月14日に放送された『小泉孝太郎&かまいたちの芸能人テスト』、4月26日放送の『芸能界ウケ宝映像グランプリ~芸人に聞いた一番ウケた瞬間30連発』、7月5日の『国民的アニメの祭典』、10月18日の『ものまね紅白歌合戦!今夜限りの史上最強ランキングスペシャル』は過去の映像をフル活用したバラエティ特番。「アーカイブを使って制作費を抑えよう」という方針が見られます。
さらに5月24日の『好き嫌いダウト最弱王決定戦』と6月21日の『BABA抜き最弱王決定戦2025夏』は過去に放送されたゲーム企画の再利用であるなど、全体的に低予算で制作できる特番が目立ちます。
特番らしい特別感を感じさせたのは、2月1日の『ビッグオセロ』、3月8日と8月2日の『ENGEIグランドスラム』、3月15日の『THE CONTE』、7月26日の『青春アカペラ甲子園!ハモネプハイスクール』、11月15日の『全国ハモネプ大リーグ2025』くらいでしょうか。その多くが以前から放送してきた特番であり、制作費などで苦しい状況の中、「これだけは守っていこう」という意思を感じさせられます。
「映画枠への回帰」は時代に逆行か
映画の放送数と内容、過去の映像を生かした企画の多さを見る限り、一連の騒動による経済的な影響は否めないでしょう。「レギュラー番組は何とか守っていけても特番枠を保つほどの余裕がない」というニュアンスがうかがえます。
もう1つ気づかされたのは、松本人志さん不在の影響。ほんの数年前まで松本人志さんがメインを務めた『人志松本のすべらない話』、『IPPONグランプリ』、『まっちゃんねる』、『まつもtoなかい~マッチングな夜~』、『HEY!HEY!NEO! MUSIC CHAMP』が『土曜プレミアム』で放送されていただけに、これらがごっそり抜けた痛手を感じさせられます。
ほぼ唯一の特番枠である『土曜プレミアム』(火曜20時台の『カスペ』もありますが、放送数が少なく映像集中心)は今後どうなっていくのか。
動画配信サービスの充実と使い勝手の良さを考えると、「さらに映画の放送を増やして、以前のような映画枠に近づけていく」という戦略は得策とは言い難いところがあります。
これまでフジテレビには「『土曜プレミアム』で評判のよかった特番をレギュラー化する」というバラエティの好循環があり、同局の番組表を支えていました。それだけに重要なのは、低予算でも視聴者を楽しませられる新たな企画をどれだけ生み出していけるのか。現在の苦境を抜け出し、「やっぱりフジテレビの番組は面白い」と思ってもらうためには、『土曜プレミアム』の特番が鍵を握っているのかもしれません。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。