【独自】〈優越感を感じたかった〉羽田空港の手荷物検査で現金を窃盗した保安検査員が裁判で語ったこと

客の現金を盗み、逮捕された保安検査員だった松本龍被告

胸ポケットを見せて「取っていません」

羽田空港の手荷物検査中に乗客の現金を盗んだとして窃盗の罪に問われている松本龍被告(21=逮捕時)の初公判が11月17日、東京地裁で開かれた。

羽田空港で保安検査員として勤務していた松本被告は、手荷物検査で乗客がトレーに置いた現金を抜き取った疑いが持たれ、9月15日までに窃盗容疑で逮捕された。

フライデーデジタルは、事件発覚直後、現金を盗まれた30代の男性被害者から事件の詳細を聞いていた。

〈私が乗った便は、9月13日午後7時15分羽田発福岡空港行きJAL333便です。手荷物検査用のトレーには、リュックと携帯、それにズボンの左ポケットから10万円を出してリュックの左側に置きました。でも、金属探知機をくぐって出てきたときには、トレーに置いた10万円がなくなっていたのです〉

その後、十数分ほど待たされたが、おカネは発見されなかったという。

〈しびれを切らして、実際に手荷物検査をしていた若い保安検査員に直接話したいと頼みました。その人が、後で知りましたが松本という人でした。『10万円をトレーに置いたのを確認しましたね』と聞くと、小さな声で『はい、確認しました」と認めたのです。『なくなっているのは、あなたが取ったからではないですか』と問いただしましたが、「取っていません」の一点張り。さらに疑っている私に、制服の下のワイシャツの胸ポケットまで見せて「取っていません」とさらに言うのです。少し不自然でした。

保安検査員の上司の方も来ていて、トレーの検査モニター画面をチェックしていたのですが、突然「うわ!!」と言うと、表情が強張りました。その直後に警察官が、松本を別室に連れていきました〉

大胆な犯行を繰り返していた松本被告だが、裁判当日は、かなり憔悴した印象だった。黒色のスーツで入廷した松本被告は、裁判の雰囲気に緊張したのか、青ざめた表情を浮かべ、終始うつむいていた。頼りない足取りで証言台に立つと、起訴内容について「間違いありません」と認めた。

「松本被告は、羽田空港の保安業務委託を受ける会社に今年4月に入社したばかりでした。逮捕時『今年の8月ごろから70~80件やった。あわせて150万円ほど盗んだ。スリルを楽しむためだった』と供述していました。現金はトイレのトイレットペーパーの芯に隠すなどしていたようです。新入社員が空港の安全を揺るがす事件を起こしてしまったということで、逮捕時、大きなニュースになりました」(全国紙社会部記者)

「他の人より多くの金を持っていることで」

検察が読み上げた冒頭陳述からは松本被告の歪んだ虚栄心とおカネへの執着が明らかになった。

松本被告は男性がトレーに載せた現金を、荷物を整頓するように装い、制服のポケットに入れた。その後、トイレに向かいトイレットペーパーの芯の中に現金を隠した。おカネがなくなったことに気づいた男性が被害を訴え、通報を受けた警察官が防犯カメラを解析したところ、松本被告がトイレに向かっていたことが発覚。問いただしたところ、犯行を認めたのだ。

盗んだおカネは自身の銀行口座に入金していたという。犯行動機について、以下のように供述している。

「他の人より多くの金を持っていることで優越感を感じたかった」

松本被告は、会社からの給与23万円に加え、アルバイトで10万円の副収入を得ていたが、

「休日を返上して働いても、これが限界だと思い、お客さんからおカネを取ろうと思った」

と供述していた。彼が狙うのは主に二つ折りの財布だった。その理由は、

「お札を確認しやすく、抜き取りやすいから」

だという。お札を抜いて制服の胸ポケットに入れるまでの時間を〝3秒ルール〟と設定するなど常習化していった。

しかし、その代償はあまりにも大きかったとしか言いようがない。証人尋問に出廷した松本被告の父親は職業を問われると「無職です」と答えた。そして、

「この事件をきっかけに退職しました。私自身が働ける状態になく、事件の影響で妻と祖母が体調を崩し、支えるために仕事を退職した。自分の躾が甘く、こういうことになってしまった。なんとか更生させたい。(息子と)常に向き合い、償っていくことを約束します」

と声を絞り出した。

(逮捕されなければ)さらに続けていた

被告人質問で松本被告は弁護人から逮捕されたことについて問われると、

「私の身勝手な行動で多大な迷惑をかけて申し訳ありません。空港のイメージ、会社の信頼を失ったと深く感じています」

と謝罪。そして、

「逮捕されて、事の重大さに気付きました。自分のやっていることを悪いと思っていませんでした」

と振り返った。裁判官から「(おカネを稼ぐことの)ゴールはありましたか?」と問われると、

「欲しいものとかはなかった。(逮捕されなければ)さらに続けていたのかなと思う」

と語った。犯罪を繰り返すうちに、おカネを稼ぐというよりは、盗むことが目的になっていたのかもしれない。家族については、

「自分の行動で周りの人も巻き込んで頭から離れない状態です。人生を変えてしまい本当に申し訳ないです」

とうなだれた。判決は11月25日の今日、言い渡される予定だ。

逮捕された時の松本龍被告
犯行については、「優越感を感じたかった」と語っている
松本龍被告は今年4月から働き始めたばかりだった