25 October 2025
いまみや・けんた ’10年に明豊高からドラフト1位でソフトバンクへ入団。遊撃手としてゴールデングラブ賞5回、ベストナイン4回受賞。右投げ右打ち。身長172cm体重76kg 挫折を乗り越え見出したプロで生きる道 「バントは″恐怖″との闘いです。ピッチャーの『投球』と『バット』と『目』を一直線に結ぶように構えるのが基本。怖がって手を顔から離すと失敗しやすくなる。要するに、顔面めがけて飛んでくる球を確実に転がさないといけないのです」 今年8月に通算400犠打を達成したソフトバンクの今宮健太(34)が言葉を継ぐ。 「打者は3割打てば優秀とされますけど、バントはほぼ10割を求められる。重圧とも闘わないといけない。失敗した時の球場にいる何万人のタメ息は、けっこう刺さりますよ。『簡単じゃねぇよ~』って心の中では思いますもん(笑)」 歴代犠打ランキングで今宮より上にいるのは、通算533個で世界記録保持者の川相昌弘(元巨人)を筆頭に平野謙(元西武)、宮本慎也(元ヤクルト)の3人のみ。しかし、今宮は力強いスイングでファンを沸かせることもある。今シーズンは「100本塁打&400犠打」を達成。日本球界史上のみならず、海外でも見当たらない快挙なのだ。 若き頃の今宮はスラッガーとして将来を嘱望されていた。身長172cmの小兵ながら、明豊高校(大分)時代は通算62本塁打に加え、投げても最速154km/hの二刀流で・小さな巨人・の異名をとる甲子園のスターだった。 「ドラフト1位でプロに入って、最初は『3000本安打を目標にします』と大口を叩きました。この体格なので、ホームランは言葉にしませんでしたが欲はありました。年間20発くらい打てる打者になれれば、とか思っていました」 しかし、考えが甘かったと痛感するのに時間はかからなかった。 「二軍の試合に出て、ポッキリと心を折られました。高校時代は同学年で後に一流になる菊池雄星投手(エンゼルス)や大瀬良大地投手(広島)らと対戦していました。しかしプロでは二軍の投手にもキリキリ舞いです。同じ145km/hの直球でも質が違うし、変化球のキレもすごい。3000本とか言った自分がバカらしかった」 初めての挫折をいかに乗り越えるか。それが、天才球児が集うプロ野球で成功するか否かの大きな分岐点となる。 「僕が幸運だったのは、鳥越裕介さん(現・西武ヘッドコーチ)が二軍監督をされていたこと。鳥越さんに、野球はもちろんプロとしての在り方のすべてを教わった。球場に行くのが嫌になるくらい厳しく叱られてばかりでしたが、振り返ってみると何一つ間違っていないし、その後の人生に生きていることばかり。僕みたいな調子に乗るタイプには、それがよかったんです」 その中で鳥越二軍監督からは「オマエみたいなタイプは守備と繋ぐ打撃を極めてプロ野球で生きていくしかない」とはっきり言われたという。高校までスター街道を歩んできたプライドは当然ある。 「目の前の現実を見れば、そのスタイルを自分の仕事として受け入れないとプロでメシが食えないのは明白。だから、折り合いをつけるのは簡単でした」 いぶし銀で生きていく覚悟で、守備と犠打の練習に多くの時間を費やした今宮。100本塁打&400犠打は、今宮がプロで生きる道を見出したがゆえの偉大な記録なのだ。 10月23日発売の『FRIDAY 11月7日号』と有料版『FRIDAY GOLD』では、 今宮が2ケタ本塁打を記録しても「たまたまと思うようにした」などの肉声を紹介。直筆の目標などを撮った独自写真も多数掲載している。 『FRIDAY』2025年11月7日号より
25 October 2025
外国人政策に関する担当大臣を兼務する小野田新経済安保相 外国人政策に厳しい視線が注がれている。一方で、日本は労働力の不足が深刻で 、24時間営業のコンビニエンスストアや、高齢化と後継者難の農業、介護の現場などに外国人が欠かせなくなっている。外国人なくして、日本の社会が成り立たなくなってきている現実があるなか 、深刻な人手不足と「共生」はどう両立するのか。 小野田紀美「外国人との秩序ある共生社会推進担当相」が掲げる“制度見直し” 今年7月の参議院議員選挙では、物価高対策などと並び、「外国人政策」が政治的な争点になった。主な政党は外国人問題への対応として厳しい姿勢を打ち出し、特に「日本人ファースト」を掲げた参政党が躍進した。 その後、日本維新の会と連立し、10月21日に誕生した高市政権では、新内閣に「外国人との秩序ある共生社会推進担当」が新設された。小野田紀美・担当相は就任会見で、「一部の外国人による犯罪や迷惑行為、制度の不適切利用で国民が不安や不公平を感じる状況が生じている」と話し、外国人関連の制度や政策を見直す考えを示した。 こうした声のなか、政府はさまざまな見直しを進めている。在留資格の一つである「経営・管理ビザ」の要件厳格化や、国外取得者の自動車運転免許の国内免許への切り替え試験の厳格化などだ。 ニッセイ基礎研究所の鈴木智也・准主任研究員は、日本の外国人は「これからも増えるだろう」とみつつ、外国人政策は「これまで拡大路線を突っ走ってきており、制度などを適正化するため、いったん立ち止まるのにいい機会」と現状を分析している。 深刻化する「労働力の不足」と受け入れの現実 政策見直しの背景にある不安とは裏腹に、労働力不足は深刻さを増している。 長野県川上村は、外国人の人口割合が高い地域だ。人口3800人ほどの村で、夏場はレタスなどの高原野菜畑が広がる。外国人の農業従事者の受け入れ人数は年ごとに大きく変動するが、1000人近いときもある。 群馬県大泉町は人口4万1000人あまりで、そのうち外国人が9000人ほどを占める。ブラジル人が約半分で、次いでペルー人、ネパール人、インドネシア人などさまざまだ。町は北関東で屈指の製造品出荷額を誇り、自動車・電子部品など、さまざまな製造業が生産拠点にしている。 大泉町の村山俊明町長は町のサイトで、外国人住民との共生について「全国に先駆けたさまざまな取り組みを積極的に進めています」と説明する。ゴミ出しルールなどの周知のために、子ども経由で親などへ情報を拡散しているほか、多言語対応などにも取り組んでいる。 外国人なくして成り立たない社会 日本の在留外国人、特に外国人労働者は、ここ十数年の在留資格の整備とともに増大している。転機は’18年の入管法改正(出入国管理及び難民認定法改正)だと鈴木氏は説明する。アベノミクスで景気が良くなり人手不足が深刻化したことを背景に、従来の短期のローテーション型の受け入れから、長期の定着型へと変わったという。 出入国在留管理庁によると、総人口に占める在留外国人の割合はここ数年で急上昇し、昨年3%を超え、総数は376万人あまりに達した 。’00年前後の割合は1%程度だった。ちなみに、昨年の在留外国人の内訳は、中国人23.2%、ベトナム人16.8%、韓国人10.9%、フィリピン人9.1%などだ。 リクルートワークス研究所は『未来予測2040』で、少子化と高齢化により、日本は慢性的な労働供給不足に直面する「労働供給制約社会がやってくる」と予想する。 労働需要がほぼ横ばいで推移し、労働供給が加速度的に減少していくとみられ 、労働供給の不足は’30年に341万人あまり、’40年には1100万人あまりに達するという。これは、現在の近畿地方の就業者数に匹敵する規模だ。連合総合生活開発研究所(連合総研)の伊藤彰久副所長も「労働供給の制約は高まっている」と話し、女性や高齢者が就業しても限界があるとみている 。 社会の不満と「共生」への課題 このように人手不足が深刻な一方で、社会の不安や不満が外国人に向けられやすい側面もある。中国の資本や富裕層などが日本の不動産を買って価格が高騰し、若年層は不動産を買えなくなると不安に感じる面や 、鈴木氏が指摘するように「インフレで国民の生活が苦しくなっている」なかで、「外国人に不満が向きやすい」状況がある。 しかし、外国人に不安や反発を感じる人がいても、外国人なくして日本の社会が成り立たなくなってきているのも事実だ。 連合総研の千谷真美子・主任研究員は「外国人が来ている分野は介護など、労働集約型サービスで、日常生活に密着しています」と指摘する。こうした分野は「賃金水準が低く、日本人はやりたがりません」。社会の維持に必要な分野で外国人を受け入れなくなると、日本人の生活水準が落ちていく懸念があるという。 では、外国人との「共生社会」は実現できるのだろうか 。 鈴木氏は、外国人政策の大きな問題として「受益と負担のバランスが違う」と指摘する。 人手不足で外国人を受け入れる企業など雇用側が「受益者」となる一方、その外国人が生活する地域や自治体には「負担」がかかる。この「アンバランスな部分の調整をどうするのか」が課題だという。 また、外国人の子どもの教育も課題だ。義務教育を受ける権利があっても、義務はない。親がいずれ帰国する予定などの理由で、「一定数の外国人の子どもたちは学校に通っていない」と鈴木氏はみている。 学校に通っていても、日本語の水準の問題などから脱落する外国人の子どもがいるかもしれず、これが格差の固定化につながりやすいと懸念される。学校教育から脱落した子どもたちをサポートする人もおらず、いずれ就業や生活費にも困る可能性がある。貧困から抜け出せず、それが犯罪などにつながる恐れがあり、社会の不安材料になりかねない。 地域の自治体には、外国人を多く受け入れ、共生社会のノウハウを蓄積するところもある。しかし、外国人との共生は地域任せでなく、政府が予算や自治体連携なども含め、もっと主導していく必要があるのかもしれない。外国人を受け入れる以上、受け入れ厳格化だけでは済まされなくなっている。