26 October 2025
2020年に引退した元プロレスラーの中西学さん 写真一覧 ワイルドな風貌に体重120キロの巨体で「野人」「和製ヘラクレス」と呼ばれた元プロレスラーの中西学さん(58)。新日本プロレスで第51代IWGPヘビー級王座、IWGPタッグ王座(第31、39、49代)に輝き、数々の名勝負をプロレス史に刻んできたが、2020年に惜しまれながら現役を引退。 あの屈強な男がリングを去ってから5年、現在は愛知県で仕事をする中西さんに、引退を決意した理由、世間を騒がせた激やせの真相、今の生活について聞いた。【前後編の前編】 「わざわざ名古屋まで来られたんですか? 自分でよければなんでもお話するので聞いてください」──待ち合わせ場所へ向かうと、ランニングシャツにジーパン姿の中西さんが取材班を出迎えてくれた。 「今は名古屋で月に1回、ネットラジオ番組に出たり、永田裕志選手のYouTube番組に呼んでもらったりしています。現役のときはシボレーのトレイルブレイザーに乗っていましたけど処分して、こっちに来てからは車じゃなくて自分の足で走ったりとかしています。 家から10キロくらいの名古屋までなら昔は1時間あればジョギングできましたけど、今は3~4時間かかっちゃいますね」 ──初っ端から“野人節”を炸裂させた中西さんだが、現役時代と比べ、少し痩せたように見える。 「現役の頃は身体の大きな選手を相手にしていましたので、壊されないようにたくさん食べて、体重は140キロほどありました。今は主に自炊しています。得意料理はホットプレートで、野菜とか肉に、米や麺を一緒に入れてつくることですね。体重は95キロを行ったり来たりという感じで、病気とかじゃないですよ(笑)」 中西さんの得意技「アルゼンチン・バックブリーカー」 写真一覧 ──現役時代から45キロも体重が減ったのですね。現役の頃、鍛え上げられた身体は「和製ヘラクレス」と呼ばれていました。 「実は試合でもすぐにバテて粘れなくて、思うようなプロレスができない時期がありました。そのときに、信頼していた知人から『ちゃんとスクワットやってるか?』って言われて。最初は半信半疑だったけど、バーベルを担いでスクワットで下半身を鍛えて、太くなったら上半身の筋肉もついてきました。要は“でっかいお皿があったらいっぱい肉も盛れるやろ”ということで、1カ月ほど徹底的に下半身を鍛え続けたのです」 ──その強靭な下半身が中西さんの得意技「アルゼンチン・バックブリーカー」(肩の上に相手を仰向けに乗せ、あごと腿を掴み反り上げる)を完成させたんですね。 「自分はデビュー戦からずっと鳴かず飛ばずでした。相手を捕まえに行こうとするけど、向こうの動きが素早いから捕まえらえず体力を消耗してしまって、いいパフォーマンスができない。 それだったら向かってくる相手を捕まえりゃいいと思って、『アルゼンチン・バックブリーカー』で普通の人が持ち上げらないような選手を持ち上げました。体重120キロのタイガー・ジェット・シンや、身長218センチのジャイアント・シルバも持ち上げてやりましたよ」 第51代IWGPヘビー級王座に輝いた 写真一覧 緊急搬送…そして全身麻痺 ──人気絶頂だった44歳のとき、2011年6月4日の地元・京都大会でジャーマンスープレックスを受けて、頸椎を損傷する大ケガを追いました。そのまま病院に緊急搬送され、当初は全身が麻痺した状態だったそうですね。 「『ジャーマン・スープレックス』でリングに叩きつけられて、記憶が飛んだことがあって。その時、多分どっかに行っていたんでしょうね。首を痛めて、30秒くらいは“上”にいたかもしれないです(笑)。戻ってこれたんでよかったですけど」 ──30秒も? 「そのまま担架で運ばれて、痛さはもはや覚えていませんね。病院に行くまでの救急車の中で、身体が少し動き出したので『これは大丈夫かな』と思いました」 ──現役復帰も絶望的だったんでしょうか。 「一番の原因は長年、首の鍛錬をしていなかった自分の責任です。自分の負傷でプロレス業界、後輩や会社にもほんまに迷惑かけました。最初は手術を回避する治療方法を模索していたんですが、東京の病院で手術をしたのは、ケガをしてから4カ月後でした」 ──どうでしたか? 「首の手術は2~3時間ほどかかりました。長年、首が狭窄症という形で、延髄で骨が圧迫されている状態だったので、手術できれいに問題箇所を取ってもらって、筒の中にちゃんと延髄を入れてもらいました。今も痺れるときはありますけど、日常生活は大丈夫ですし、まだまだ走れます」 ──約1年半のリハビリ期間を経て、2012年10月に492日ぶりに新日本プロレスのリングに復帰して、カムバックを果たしました。しかし、2020年に突然、引退を発表されました。 「手術から9年間、受け身がちゃんとできなくなったんです。自分の身体をケアしながらの試合しかできず、パフォーマンスとして本当にお客さんに対しても申し訳ないし、試合相手に対しても申し訳ないし、迷惑かけましたね。 会社と話し合い、引退を決めました。他の団体でというのは考えてなかったですね、自分は新日本に憧れて育ててもらい、いまだに契約していただいていて、恩返しをしたいっていうのがあります」 ──いつまでプロレスラーを続けたかったですか? 現役時代から45キロも体重が減った 写真一覧…
26 October 2025
外国人政策に関する担当大臣を兼務する小野田新経済安保相 外国人政策に厳しい視線が注がれている。一方で、日本は労働力の不足が深刻で 、24時間営業のコンビニエンスストアや、高齢化と後継者難の農業、介護の現場などに外国人が欠かせなくなっている。外国人なくして、日本の社会が成り立たなくなってきている現実があるなか 、深刻な人手不足と「共生」はどう両立するのか。 小野田紀美「外国人との秩序ある共生社会推進担当相」が掲げる“制度見直し” 今年7月の参議院議員選挙では、物価高対策などと並び、「外国人政策」が政治的な争点になった。主な政党は外国人問題への対応として厳しい姿勢を打ち出し、特に「日本人ファースト」を掲げた参政党が躍進した。 その後、日本維新の会と連立し、10月21日に誕生した高市政権では、新内閣に「外国人との秩序ある共生社会推進担当」が新設された。小野田紀美・担当相は就任会見で、「一部の外国人による犯罪や迷惑行為、制度の不適切利用で国民が不安や不公平を感じる状況が生じている」と話し、外国人関連の制度や政策を見直す考えを示した。 こうした声のなか、政府はさまざまな見直しを進めている。在留資格の一つである「経営・管理ビザ」の要件厳格化や、国外取得者の自動車運転免許の国内免許への切り替え試験の厳格化などだ。 ニッセイ基礎研究所の鈴木智也・准主任研究員は、日本の外国人は「これからも増えるだろう」とみつつ、外国人政策は「これまで拡大路線を突っ走ってきており、制度などを適正化するため、いったん立ち止まるのにいい機会」と現状を分析している。 深刻化する「労働力の不足」と受け入れの現実 政策見直しの背景にある不安とは裏腹に、労働力不足は深刻さを増している。 長野県川上村は、外国人の人口割合が高い地域だ。人口3800人ほどの村で、夏場はレタスなどの高原野菜畑が広がる。外国人の農業従事者の受け入れ人数は年ごとに大きく変動するが、1000人近いときもある。 群馬県大泉町は人口4万1000人あまりで、そのうち外国人が9000人ほどを占める。ブラジル人が約半分で、次いでペルー人、ネパール人、インドネシア人などさまざまだ。町は北関東で屈指の製造品出荷額を誇り、自動車・電子部品など、さまざまな製造業が生産拠点にしている。 大泉町の村山俊明町長は町のサイトで、外国人住民との共生について「全国に先駆けたさまざまな取り組みを積極的に進めています」と説明する。ゴミ出しルールなどの周知のために、子ども経由で親などへ情報を拡散しているほか、多言語対応などにも取り組んでいる。 外国人なくして成り立たない社会 日本の在留外国人、特に外国人労働者は、ここ十数年の在留資格の整備とともに増大している。転機は’18年の入管法改正(出入国管理及び難民認定法改正)だと鈴木氏は説明する。アベノミクスで景気が良くなり人手不足が深刻化したことを背景に、従来の短期のローテーション型の受け入れから、長期の定着型へと変わったという。 出入国在留管理庁によると、総人口に占める在留外国人の割合はここ数年で急上昇し、昨年3%を超え、総数は376万人あまりに達した 。’00年前後の割合は1%程度だった。ちなみに、昨年の在留外国人の内訳は、中国人23.2%、ベトナム人16.8%、韓国人10.9%、フィリピン人9.1%などだ。 リクルートワークス研究所は『未来予測2040』で、少子化と高齢化により、日本は慢性的な労働供給不足に直面する「労働供給制約社会がやってくる」と予想する。 労働需要がほぼ横ばいで推移し、労働供給が加速度的に減少していくとみられ 、労働供給の不足は’30年に341万人あまり、’40年には1100万人あまりに達するという。これは、現在の近畿地方の就業者数に匹敵する規模だ。連合総合生活開発研究所(連合総研)の伊藤彰久副所長も「労働供給の制約は高まっている」と話し、女性や高齢者が就業しても限界があるとみている 。 社会の不満と「共生」への課題 このように人手不足が深刻な一方で、社会の不安や不満が外国人に向けられやすい側面もある。中国の資本や富裕層などが日本の不動産を買って価格が高騰し、若年層は不動産を買えなくなると不安に感じる面や 、鈴木氏が指摘するように「インフレで国民の生活が苦しくなっている」なかで、「外国人に不満が向きやすい」状況がある。 しかし、外国人に不安や反発を感じる人がいても、外国人なくして日本の社会が成り立たなくなってきているのも事実だ。 連合総研の千谷真美子・主任研究員は「外国人が来ている分野は介護など、労働集約型サービスで、日常生活に密着しています」と指摘する。こうした分野は「賃金水準が低く、日本人はやりたがりません」。社会の維持に必要な分野で外国人を受け入れなくなると、日本人の生活水準が落ちていく懸念があるという。 では、外国人との「共生社会」は実現できるのだろうか 。 鈴木氏は、外国人政策の大きな問題として「受益と負担のバランスが違う」と指摘する。 人手不足で外国人を受け入れる企業など雇用側が「受益者」となる一方、その外国人が生活する地域や自治体には「負担」がかかる。この「アンバランスな部分の調整をどうするのか」が課題だという。 また、外国人の子どもの教育も課題だ。義務教育を受ける権利があっても、義務はない。親がいずれ帰国する予定などの理由で、「一定数の外国人の子どもたちは学校に通っていない」と鈴木氏はみている。 学校に通っていても、日本語の水準の問題などから脱落する外国人の子どもがいるかもしれず、これが格差の固定化につながりやすいと懸念される。学校教育から脱落した子どもたちをサポートする人もおらず、いずれ就業や生活費にも困る可能性がある。貧困から抜け出せず、それが犯罪などにつながる恐れがあり、社会の不安材料になりかねない。 地域の自治体には、外国人を多く受け入れ、共生社会のノウハウを蓄積するところもある。しかし、外国人との共生は地域任せでなく、政府が予算や自治体連携なども含め、もっと主導していく必要があるのかもしれない。外国人を受け入れる以上、受け入れ厳格化だけでは済まされなくなっている。