物価高騰&資材不足の救世主!アジア・アジアパラ競技大会2026で導入される”動く選手村”のリアル

「移動式宿泊施設」の外観のコンセプトイメージ

優れた断熱性・機密性・耐熱性

開催まで約1年に迫った「アジア競技大会・アジアパラ競技大会(愛知・名古屋大会)」。4年に1度開かれるアジア最大級のスポーツの祭典で、“アジアの五輪”とも称されるビッグイベントだ。

その舞台に、かつてない規模の“移動式選手村”が登場するという。

「当初、名古屋競馬場跡地に選手村を作る計画を進めていましたが、物価高騰や資材不足で費用が想定の2倍かかることが判明。選手村は作らず、県内外の約50ヵ所のホテルを宿泊施設とする案で一旦、まとまりました。

ところが、OCA(アジア・オリンピック評議会)から『集積性が足りない』と見直しを求められ、大会組織委員会は当初計画していた4000人規模のクルーズ船の活用に加えて、クルーズ船が停泊する名古屋港・ガーデンふ頭の近くに2000人規模の移動式宿泊施設を設置する計画が発表されました」(地方紙記者)

「移動式宿泊施設」は、いわゆるコンテナハウスと考えればいいだろう。

能登半島地震被災地への仮設住宅供給実績がある『株式会社アーキビジョン21』が躯体(くたい)の製造とインフラを整備し、家具業界大手の『株式会社ニトリ』が内装工事および家具・家電・寝具などの納品を担当する。

こちらは内装(共用部)のコンセプトイメージ

4月下旬に結成されたこの2社のJV(共同企業体)により、両社の得意分野を活かした効率的かつ快適な住環境の提供が期待されている。実際、両社はこれまでも数々の災害復旧や緊急対応の現場で強みを発揮してきた。

『アーキビジョン21』の広報担当者は、これまでの実績についてこう話す。

「能登半島地震時の応急仮設としてはおよそ500戸、また関連施設として宿舎・寮・集会所などを提供させていただきました。過去の応急対応としては、’20年九州豪雨70戸、’22年新型コロナ応援支援(感染症療養施設)210床など、合計700戸以上を提供した実績があります」

一方の『ニトリ』も、家具・内装の領域から被災地支援を積み重ねてきた。

「災害復旧支援や自治体の緊急用療養施設の納品を行ってきました。今回導入される移動式宿泊施設は、北海道で開発された断熱性や気密性、耐久性の高さが特徴です。木の温もりを活かした空間づくりに取り組み、選手の皆さまが心身ともにリラックスできる空間を目指していきたいと考えております」(株式会社ニトリ広報担当)

ベッドルームのコンセプトイメージ
移動式宿泊施設の設置が予定されるガーデンふ頭(©名古屋港管理組合)

「持続可能」な選手村

国際大会では類を見ない移動式宿泊施設。組織委員会の広報担当者はその「可能性」と「課題」をこう見ている。

「サステナビリティの観点からも有効であり、大会後には応急仮設住宅として再利用することで防災力向上にも貢献できると考えています。アジア・アジアパラ競技大会での使用を通じて、バリアフリーなどのアクセシビリティの高いモデルを開発し、共生社会の実現につなげていく予定です。

『クルーズ船と設備や快適さで格差ができるのではないか』と懸念されていますが、同一の競技参加選手・チーム役員に対して、同一水準の滞在環境を提供できるよう検討中です」

移動式宿泊施設が設置されるのは、名古屋港の中心部にあたるガーデンふ頭。比較的オープンな立地ではあるが、セキュリティに関する詳細は公表されていない。OCAから指摘された“集積性”についても対策が必要だろう。

「セキュリティに関しては機密保全の観点から非公表としていますが、安全・安心な大会運営に向けて適切な警備体制を構築するべく、関係各所と連携を進めています。クルーズ船とは約6.5㎞、離れていますが、シャトルバスで選手や関係者を送迎することで『選手の交流の場を確保する集積性』の問題もクリアできると見込んでいます」(同前)

持続可能、バリアフリー、そして防災対応。前例のない“動く選手村”は、’26年のアジア・アジアパラ競技大会のみならず、未来の国際スポーツイベントや災害対応の在り方を左右する大きな試みとなりそうだ。

シャワールームのコンセプトイメージ
トイレのコンセプトイメージ