
問題の「釧路湿原のメガソーラー」は外資所有に
北海道の釧路湿原国立公園周辺で大阪市の日本エコロジー社が進めているメガソーラー建設で、次々と新たな問題が発覚している。
同社は釧路市の民有地約4.2ヘクタールにソーラーパネル約6600枚の設置を計画しているが、9月に森林法違反と盛土規制法違反、天然記念物の生息調査が十分に行われていないことなどが明らかになって工事は中断。10月には土壌汚染対策法に違反していたこともわかった。
それだけではない。メガソーラーの建設予定地が日本エコロジー社から愛知県の企業を経て、今年3月にシンガポール系企業の日本法人に売却されていたことまで明らかになったのである。北海道新聞によると、この日本法人はメガソーラー施設が完成した段階で所有権を取得するという。
「おそらく、日本エコロジーは最初から転売目的で土地を取得したのだと思います」
そう話すのは、地域経済論を専門とする神戸国際大学の中村智彦教授だ(以下、「」は中村氏)。
「シンガポール系企業がどういう目論見でメガソーラーの建設予定地を買ったのかはわかりません。第三国に売り渡すかもしれないし、今後どう転がっていくかがつかめない。
そうすると、トラブルが発生した場合どうなるか。土地を売ってしまった日本エコロジーには原則、責任はありません。海外企業に転売されていけば、日本に敵対する国の企業が所有することだってあり得ます」
日本エコロジー社が釧路湿原周辺でメガソーラー建設工事に着工したのは3月。シンガポール系企業に売却したのも3月とされる。ちなみに日本エコロジー社は山口県内の太陽光発電事業でも建設業法の違反行為を繰り返し、処分を受けている。
「日本エコロジーの社長は記者会見に出てきて、堂々と説明していましたね。彼に責任を取る気はまったくないというか、売却してしまえば責任はなくなります。そういう前提で会見に出席したのでしょう」
メガソーラー建設地の売却や事業譲渡の問題は、全国各地で起きている。
「メガソーラー事業の仕組みはどうなっているか。事業者はまず、過去の原野商法(価値の低い土地を不当に高額で売りつける商法)で売られたような土地を所有者から二束三文で買い、そこにソーラーパネルを設置する。
もちろん真面目に発電する事業者もいますが、悪質な業者は投資を募ってその土地とソーラー施設を一緒に分譲する。売ってしまえば、業者に責任はなくなります。 現在、建設が進んでいるメガソーラーの多くが転売目的ではないかと私は見ています」

「『悪質業者を排除できていない』ことが問題」
日本でメガソーラーの普及が進んだきっかけは、’12年に再生可能エネルギー(再エネ)の「固定価格買取制度」(FIT)が導入されたことにある。
これは、太陽光などで発電した電力を、国が定めた価格で一定期間買い取ることを電気事業者に義務づけた制度で、’12年施行の「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」(再エネ特措法)によって導入された。
「太陽光発電の状況を振り返ると、’08年ごろから大阪湾岸にシャープやサンヨー、パナソニックなどが大型のパネル工場を次々と建設し、液晶パネルやソーラーパネルの製造を始めました。
そして’09年に住宅用太陽光発電の『余剰電力買取制度』が始まり、’12年にはFIT制度がスタートした。余剰電力の買い取りから全量買い取りへと制度が変わったことで、事業性を見出した多くの企業がメガソーラー建設に参入したんです。
しかしその後、FIT制度の買い取り価格が見直されるなどして、事業から手を引く企業が相次いだ。国内のパネルメーカーも海外勢に押されてシェアを落とし、撤退を余儀なくされました。この時点で、国内のパネル産業を支援するという名目はなくなったわけだから、補助金制度は見直すべきだったと思います。
ところが、中国や韓国の安価なソーラーパネルをどんどん日本に流入させたためパネルの価格が下落し、投資金額が低減されました。結局、メガソーラーの建設は続いています」
とはいえ、温室効果ガスの削減やエネルギー自給率の向上に有効な再生可能エネルギーは、もはや不可欠。中村教授も「太陽光発電の導入自体は間違いではない。メガソーラーに関していえば、利益だけを考えて開発を進める悪質業者を排除できていないことが問題です」と話す。
菅義偉政権時代の’20年、小泉進次郎環境大臣(当時)は、国立公園内での再生可能エネルギー発電所の設置を促す規制緩和をすると表明。この規制緩和が、国立公園内でのメガソーラーの乱開発を加速させたとの批判もある。
「太陽光発電にしても風力発電にしても、日本には商業ベースで使える適切な土地がほとんどありません。それで、国立公園内でも条件を満たせば太陽光発電などの施設を設置できるよう規制を緩和したけれども、緩和すれば制度を悪用する業者が出てくる。だから、それを取り締まる法律を作っておかないといけない。その発想が欠けていた。
今回は釧路湿原というシンボリックな場所で業者の法令違反や外資への転売が発覚したから注目を集めていますが、10年前から全国のあちこちでメガソーラーを巡る問題が起きているわけです。外資系メガソーラーが絡むトラブルも発生している。
しかし、国は有効な根本的な対策を講じてきませんでした。国策として再エネの導入を促進してきたのですから、国は不当な行為を取り締まる法律を整備する責任があったと思います」
10年以上放置されたままの法整備
北海道新聞の集計によると、FIT制度を利用する道内のメガソーラーは8月時点で約450施設あり、そのうち外資系は約2割に上るという。日本エコロジー社はFIT制度を使わない事業者だが、道内には非FIT制の施設がかなりあるとみられている。そこにも外資は参入しているだろう。
「たとえば、私が以前住んでいたシンガポールでは、外国人の土地購入に対して非常に厳しい規制が設けられています。シンガポールに限らず海外では、空港や港、軍事施設、国立公園、あるいは重要な水源などの周辺に関しては、規制でがんじがらめになっている。日本のように自衛隊基地の隣の土地まで外国人が買えるなんてことは、海外ではあり得ません。
日本も軍事施設など国の安全保障に関わる土地の周りはもちろんのこと、釧路湿原をはじめとする国立公園の周辺も、外国人が所有できないように厳しく規制する必要があります。 基本、国と国とは互恵関係で成り立ちます。日本人の土地購入を規制している国の国民が、日本の土地を自由に売買できるというのはおかしいと思います」
政府は、自然破壊や災害リスクのあるメガソーラーの規制強化のために、16の法律を改正または見直し、経済産業省と環境省を中心に政策パッケージを年内に取りまとめるという。
「メガソーラーのような全国的な問題は、やはり国が法律を作って取り組まないといけません。各自治体が条例をつくったりガイドラインを策定したりしてはいますが、罰則規定を設けないと事業者の開発を抑制するのは難しいでしょうね」
「地方自治研究機構」(東京)によると、全国の自治体で制定されている太陽光発電設備などの設置を規制する条例は9月17日時点で326条例に上る。
釧路湿原のメガソーラー問題に対応する釧路市も今年に入り、出力10キロワット以上の事業用太陽光発電所の建設を規制する条例を制定した。鶴間秀典市長は環境省に対し、開発を規制できるような法整備を要望している。
「自治体の職員は、歯がゆい思いをしているんです。現場の人たちは10年も前から『違法な事業を阻止したくても、法律がないためにできない』とぼやいていました。 全国の各自治体が規制条例を制定する動きを加速させているのに、国の法整備は追いついていない。無秩序なメガソーラー建設に歯止めをかけるための法改正を、国は急ぐべきです」
▼中村智彦(なかむら・ともひこ)神戸国際大学経済学部教授。1988年、上智大学文学部卒業。1996年、名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程修了。タイ航空、PHP総合研究所、大阪府立産業技術総合研究所で勤務。’07年から現職。専門は地域経済論、現代日本産業論など。