
「報酬はいらないので……」
株式会社BBE。作家の志茂田景樹(85)に“格闘界のファンタジスタ”皇治(36)と幅広いジャンルのタレントたちをブッキングする芸能事務所である。
BBEの代表取締役社長・大本英正氏は『SDN48』で一世を風靡した芹那(40)やミスFLASHの村上友梨(32)を発掘し、『電撃ネットワーク』の故・南部虎弾の最後のマネージャーを務めた男である。その大本社長が怒りを滲ませながら言う。
「恥ずかしながら詐欺に遭いまして……3000万円、いかれました。芸能事務所の社長と聞くと金持ちのイメージを持っている方がおられるかもしれません。ですが、それは売れっ子を抱えているほんの一握りの事務所だけ。ほとんどが零細企業です。3000万円のマイナスは死活問題です」
いったい、何があったのか。きっかけは暗号資産だという。
「将来、会社を支える資金になってくれればと暗号資産を買ったのですが、引き出せなくなったのです。ブロックチェーン・ドットコムという会社の暗号資産ウォレットで管理していたのですが、ログインできなくなった。そこにあることはわかっていても、取り出すことができなくなった。
IPアドレスに規制がかかっているのが原因だとか、海外に行ってアクセスすればログインできるとか、当時いろいろ言われていまして、詳しい知人にも相談しましたが結局、どうにもならなかった。そんなある日、X社の“暗号資産・仮想通貨を復旧します”というSNS広告が目に入りました。昨年12月のことです」
優しいタッチのイラスト、2000人以上という相談実績、何よりIT法務に詳しい国際弁護士が顧問弁護士として顔出し・実名でホームページに登場していて、適宜アドバイスしてくれるというのが安心材料となった。
大本社長は12月半ばに暗号資産ウォレットの解除(復旧)を依頼。年が明けて2月に解除がなされた。日本円にして2000万円。報酬は解除額の10%の200万円だったが、X社の担当・カネダと名乗る人物は、
「その200万、解除報酬としていただく代わりにウチで運用しませんか? 弊社おすすめのNFTを買いませんか?」
と甘い誘いをかけてきた。
「ここでやめておけばよかったんです。人間の欲って怖いですよね、どうせ報酬としてなくなるはずの200万円ならいいか、と誘いに乗ってしまった。思えば担当のカネダとは電話とチャットでやり取りしただけ。一度も会っていない。どうして信用してしまったのか……」
取り戻した暗号資産の解除報酬の約200万円分でX社が推奨するNFTを購入。数日後に倍になった。

「300万円なら返してもいい」
こうなるともう止まらない。「彼らがいなければ戻って来なかったカネなんだから」と全額をX社が推すNFTに突っ込み、誘われるままシンガポールの暗号資産プロジェクトも買った。どちらも「当社のリサーチルームが厳選したから絶対大丈夫」「必ず値上がりする」「買うチャンスはここ2〜3日しかない」と同社が猛プッシュしてきた案件だ。
総額3000万円の大勝負に出た大本社長だったがーーシンガポールの暗号資産プロジェクトはロックアップ(売却できない状態)となり、NFTは一切値動きがなく、買い手がつかない状態に。そして、X社からの連絡が途絶えたという。
「最初、少しだけ利益や配当を出して信用させておいて、一気にガバッと持っていく……典型的な詐欺の手法ですよね。ホームページに書かれているX社の住所に行ってみるとバーチャルオフィスで、しかもそこにX社はなく、担当に電話すると『引っ越したの言ってませんでしたっけ?』と言われました。ホームページに載っていた顧問弁護士に接触すると『勝手に名前と写真を使われている』と困惑していました。
だまされたからこそ実感を持って言えますが、日本になんと詐欺の多いことか。先日も特殊詐欺で田舎のお婆さんが3億円をだまし取られたというニュースが流れていましたが、なんとか詐欺師どもに打撃を与え、善良な世の人々に警鐘を鳴らしたいとの思いから、戦うことを決めました」

知らぬ間にX社の顧問弁護士にされていた中野秀俊弁護士を代理人に起用。大本社長は詐欺罪で、中野弁護士は偽計業務妨害罪でそれぞれX社を刑事告訴した。
告訴の準備を進める中で、新事実が判明した。国外にいる伊藤瑛人という男がX社の黒幕であるという疑惑が浮上したのだ。大本社長が続ける。
「X社がホームページで謳(うた)っていた通り、中野弁護士は暗号資産の問題に強い弁護士で、独自の人脈を通じて伊藤に辿り着いた。伊藤は“榊原けんじ”という別名を持っている暗号資産界隈では知られた存在。色黒で小太りのイケイケな男で、夜の街でも太客として有名でした」
「伊藤瑛人」でウェブ検索すると、ガーシーこと東谷義和元参議院議員をドバイに呼び寄せ、匿っていたことで知られる実業家AのSNSの投稿や、Aと一緒に写った写真がヒットする。二人は一時期は蜜月だったが、現在は仲違いしているという。
「指定された事務所のような場所に中野弁護士が赴き、私物を預けたうえでウェブを介して伊藤に返金を求めたところ、伊藤は『300万円なら返してもいい』と嘯(うそぶ)きました。腹立たしい限りです。犯罪者どもが日本の警察の手の届かない安全地帯から同胞のカネを掠(かす)め取る。相手がご老人だろうが、女子供だろうが構わず襲いかかる。この卑劣で卑怯な悪党どもを私は許しません」
生活費にも事欠く厳しい経済状況ながら、大本社長は民事提訴にも踏み切る。
「こんな詐欺に引っかかり、恥ずかしい限りですが、こうして実名で経緯を語ることで私のような被害者が出ることを防げたら、と願っています。いろいろ動くうちに暗号資産界隈に知り合いができました。伊藤とドバイで飲んでいた奴らともつながりました。人生をかけて詐欺師を追い詰めます」