「セロ」のレシピ革命 ″ゴーヤチャンプル″に奇跡が起きた!【大反響! ハイパーグルメ企画】
せろ/’73年、アメリカ・ロサンゼルス生まれ。『マジック革命!セロ!!』(フジテレビ)が’04年から’14年にわたり放送され、人気を博した。現在は海外を中心にマジックショーを開催。世界を飛び回る日々を送っている 「サプラ〜〜イズ!!」 9月某日――FRIDAYグルメ担当編集部員のもとに一通のタレコミが届いた。 「あのレジェンドマジシャンが″究極のゴーヤチャンプル″を完成させたらしい」 その人物とはハンバーガーをメニュー看板から取り出すなどの″出現マジック″で一世を風靡し、’00年代のテレビ界を席巻した伝説のストリートマジシャン・セロ(52)。これまでMr.マリックの「究極の焼きそば」、トランプマンの「極旨カレー」といった、″レジェンドマジシャンの究極レシピ″を紹介してきたFRIDAYグルメ班としては見逃せない情報だ。 ミステリアスなのは、沖縄料理の定番・ゴーヤチャンプルとアメリカ生まれのマジシャンという組み合わせ。いったい、どんなトリックが仕掛けられているのか。さっそく取材を申し込んだ。 セロに指定された待ち合わせ場所に到着した取材班は、さらなる謎に包まれた。なんと、東京・渋谷区にあるトレーニングジムだったのだ。料理を語る場としてはあまりに不釣り合いだ。重厚な扉を押し開けると、セロがボクシング世界チャンピオンら有名アスリートたちに囲まれ、汗を滴らせながら黙々とトレーニングに励んでいた。あまりに真剣な表情に、記者は思わずこうつぶやいた。 「料理の取材では……」 「ハッ! フンッ!」 面食らう記者を無視してトレーニングに打ち込むセロ。スレンダーで都会的なイメージが強かったが、すっかりマッチョマンとなっている。 約1時間におよぶワークアウトを終えたセロは、ジムの片隅で呆気にとられている記者に気づくとこう語った。 「いい料理を作るには、まず心身を整えなければいけない。これは究極のグルメのための下準備です。鍛えられた肉体から生み出される料理はデリシャス! ですよ。じゃあキッチンに行きましょう」 そう言いながら白い歯を見せたセロ。トレーニングは関係ないだろ……と訝りながらキッチンに入った記者に、セロは1枚の写真を見せた。ゴーヤチャンプルが写っている。 「よく見ていて。3、2、1……! サプラ〜〜イズ!!」 次の瞬間、猛烈に食欲をそそる香りにキッチンが包まれた。これはガーリックに生姜に……と、記者の目の前に写真のゴーヤチャンプルが出現していることに気づいた。二の句が継げずにいる記者にセロが一言。 「レッツ・テイスティング!」 湯気を立てている″サプライズゴーヤチャンプル″を口に運ぶ。ゴーヤ特有の苦味が鼻を抜けていくのだが、ただ苦いだけではなく、豚や卵の甘味が重なり絶妙なバランスが取られている。後味にピリッとした辛さや、フルーティーな香りも漂ってくる。一体、どんな魔法をかければこの″サプライズゴーヤチャンプル″になるのか。「ぜひ教えてほしい!」と懇願する記者に、セロは笑顔で答えた。 「OK。レッツ・ティーチング!」 ゴーヤに泡盛!? 野菜をカットし始めたセロ。ゴーヤや玉ねぎ、人参といったオーソドックスな食材だ。下準備の中で目を引いたのが、ゴーヤの処理。普通は塩揉みして臭みをとるが、セロは一味違う。 「ゴーヤは塩揉みしません。苦味を消すのはイージーだけど、それだと素材の個性を殺してしまう。それに僕はとってもスイートな人生を歩んでいるから、料理くらいは″苦味″が欲しくなるんです」 ……豆腐は沖縄の伝統食材・島豆腐。水分量が少なく、炒めてもベタつかずにしっかり形を保ってくれる。 ここでセロが珍しい食材を取り出した。ニンニクと生姜に加え、唐辛子を、しかも2種類入れるという。あの魅惑の香りはここからきているのか。 「ニュージーランド産の辛味が強いチリペッパーはマストですね。ただ、辛味に加え甘さもあるイタリア産のカッペリーノも僕の好み。人生には″辛さ″も必要でしょ?」 食材を用意し終えると、豚肉を炒め、野菜は火の通りにくい順に人参からフライパンに入れていく。調味料は醤油を少し入れただけ。最後にセロが取り出したのは泡盛だった。フライパンに一回しして、フランベ状態に。ゴーヤチャンプルには似つかわしくない、大きな火柱が立ち上がった。サプラ――ィズ! 「これが一番のポイント。泡盛を入れると、甘くフルーティーな香りがつきます。香りが強く、フランベできるようアルコール度数が40度以上あれば、泡盛じゃなくてもOK。料理にルールはありませんから。僕は海底熟成の『豊見城(とみぐすく)サンゴ』というブランドの泡盛を使っています」 原点は祖母の味 セロは見た目にもこだわる。卵はとき過ぎないようにして、別のフライパンでふんわりと焼いてから後乗せするのだ。黄色と白の2色が皿全体にさらなる彩りを加え、見る者の食欲を刺激する。 こうして″サプライズゴーヤチャンプル″は完成した。セロは、「マジックと同じで、味覚以外にも視覚や嗅覚など全身で楽しんでほしい」と胸を張った。 マジック界の革命児として’00年代にお茶の間のスーパースターとなったセロは、’14年のレギュラー特番終了を機に地上波から姿を消した。燃え尽き症候群が原因だった。 「当時は2時間特番を半年に1本のペースで作り続けなければならなかったんです。もちろん全て新ネタを用意しないといけなかった。視聴率に追われ、心身ともに疲弊し、バーンアウトしました」 番組制作に全身全霊を注ぎ込んだ結果、セロはついに限界を迎えた。そこから始まったのが、料理の探究だった。 「生まれはアメリカですが、小学校低学年まで沖縄の祖母の家で暮らしていました。大好きな祖母の得意料理が、ゴーヤチャンプルだったんです。質素な味付けでしたが、とてもデリシャスでした。 テレビ業界から距離を置いて自分を見つめ直す中で、前から好きだった料理を楽しむ時間が増えました。そこで極めようと思った料理がゴーヤチャンプルだったんです。最初は調味料に頼った濃い味付けでした。お好み焼きソースを入れるなどいろんなチャレンジをしました。全然合わなかったですけど(笑)」…
