「大谷翔平の2025年」記録ずくめの一年を振り返る 最高の名シーンBEST7

【1号 3月19日】5回に放った右中間へのソロ本塁打は、ファンの手に当たってグラウンドにポトリ。リプレイ検証で再認定

還ってきた二刀流

自己最多となるシーズン55本塁打を放ち、実に749日ぶりとなる勝ち星を挙げ、チームを2年連続のワールドシリーズへ導いた二刀流の、伝説の一年が終わった。

ドジャース移籍2年目の今季、大谷翔平(31)が成し遂げた偉業は数えきれず、そして筆舌に尽くしがたい。そこで本誌は今回、還ってきた二刀流の″BESTシーン″を、カメラが捉えた決定的瞬間とともに振り返る。

大谷の’25年シーズンは、東京ドームから始まった。

3月18日(日本時間)に行われたカブスとの開幕戦で2安打を放った大谷は、翌19日にシーズン第1号を放った。日米が待望した一発は、ライトフェンスぎりぎりに着弾。ファンも本人もヒヤヒヤの打球だった。

メジャー評論家の友成那智氏は「5月10日のダイヤモンドバックス戦で放った12号3ランが、今季の″BESTシーン”の一つ」と話す。

「この日は佐々木朗希(23)が先発したのですが、初回に2発のホームランを許すなど不本意な投球で5回途中で降板。試合は乱打戦の様相を呈し、11対11の同点で9回の打席を迎えました。1アウト一、二塁と一打勝ち越しの場面で、大谷は低めのスプリットを強振。打球はライトスタンドに吸い込まれ、ドジャースはそのまま勝利を収めました。

改めて、チャンスの場面での集中力のすさまじさを思い知らされましたし、何より打った瞬間にホームランを確信して両手を広げながら一塁へ向かう姿がカッコよかった」

【12号 5月10日】3点ビハインドの9回、ドジャース打線が同点に追いつくと、試合を決める一発を放ったのはやはりこの男

6月17日、大谷は663日ぶりにメジャーのマウンドに立ち、さっそく100マイル(約161km/h)を披露。メジャーでの登板経験を持つ藪恵壹氏は「同じ投手として、大谷が再びメジャーで投げている姿を見られたことが自分のことのように嬉しかった」と話しつつ、8月28日の今季初勝利を″BESTシーン″に推薦した。

「自慢のストレートやスイーパーに加え、シンカーやカーブといった新たなウイニングショットの完成度に驚いた試合でした。ケガを負った2年前よりも、明らかに進化していることを確信しましたね。

あの試合の大谷は、3回にソロ本塁打を許したものの、後続をきっちりと打ち取り、続く4回には逆転の口火を切るライト前ヒットを放ち、5回1失点でマウンドを降りました。

投手という生き物は、失点した直後に味方打線が流れを変えてくれると本当に安心できるんですよ。彼の場合は自分でそれをやってのけてしまうわけですから、恐ろしいですね(笑)」

【663日ぶり復帰登板 6月17日】エンゼルス時代の’23年8月23日(レッズ戦)以来の登板は、1回無四球2安打1失点。最速161.3km/hを記録

ここまで、レギュラーシーズンにおける投打の名シーンを紹介してきたが、メジャーリーグ解説者の福島良一氏が″BEST″に挙げたのは、100マイルのストレートでも、豪快な場外ホームランでもなかった。

「6月20日のパドレス戦での振る舞いが、大谷をメジャー最高のスターたらしめている」と話し、こう続ける。

「9回表、ドジャースのリリーフ投手ジャック・リトル(27)が投じたボールがパドレスの主砲タティス・ジュニア(26)の右手首を直撃。前日、前々日にはすでに合計四つの死球が飛び出していたこともあってか、両陣営の監督と選手はベンチを飛び出し、7分間の睨(にら)み合いを続けました。

球審は当然、両監督を退場処分とし、警告試合を宣告。異様な雰囲気の中、大谷は9回裏の打席に立つと、右肩近くに報復死球を浴びたのです。誰もが両軍入り乱れる乱闘を覚悟しました。

ところが、大谷は怒れる仲間を制し、相手を睨むことすらなく、真っすぐ一塁へ。相手投手が退場した後には自らパドレスベンチに歩み寄る余裕を見せ、ついには談笑までしてのけたのです。相手選手から大きなリスペクトを集めている大谷だからこそ起こりえた、彼にしか作り出せない瞬間でした」

【乱闘を未然に防止 6月20日】速球が右肩を直撃したが痛がるそぶりを見せず、仲間の怒りを左手で制し、両軍の争いに終止符を打った

野球の極みへ

かくしてチームを4年連続の地区優勝に導いた大谷は、順調にワイルドカード、地区シリーズを突破した。そして、新たな伝説の瞬間は訪れる。

勝てばワールドシリーズ進出が決まるブルワーズとのリーグ優勝決定シリーズ第4戦、大谷は投手として7回途中無失点10奪三振、打者として3本塁打という、二刀流の極致を見せつけた。

「この試合で最も驚いたのは、2本目のホームランです。大谷がいとも簡単に場外へ運んだ球は、絶対に失投ではありません。元投手の私からしても、間違いない。ストライクゾーンからボールゾーンに食い込む絶妙なコースに投げ込まれた、本来ならファールか内野ゴロにしかならないベストピッチです。

この球を打たれてしまったら、バッテリーは大谷を褒めるしかありません。あれはただのホームランではなく、打者としても世界一の存在であることを証明した一発でした」(前出・藪氏)

前出の友成氏も、藪氏に賛同する。

「あの試合で、大谷はベーブ・ルースを超えたと言っていいでしょう。今年の春からポストシーズンに合わせて投手としてのリハビリを続け、イニングを徐々に延ばし、変化球を解禁してきた。すべての歯車が噛(か)み合った最高の試合でした」

2年連続の世界一をかけてブルージェイズと相対したワールドシリーズの第3戦では、4打数4安打、2本塁打、4敬遠、1四球、9出塁という前代未聞のパフォーマンスを披露。

この試合で大谷が記録した1試合9出塁、単一ポストシーズンで3度目となるマルチ本塁打は、いずれもメジャーのポストシーズン記録。1試合4長打は、ワールドシリーズ史上119年ぶり2人目の記録だった。

誰も足を踏み入れたことのない野球の極みに達した二刀流は、来季も数えきれない″BESTシーン″を生むだろう。

【749日ぶり勝ち投手 8月28日】87球を投じて最速約161km/h、5回1失点9奪三振と圧巻の内容でマウンドを降り、久々の勝利投手となった
今季の大谷は速球に加えて変化球が冴えわたり、カーブ、スプリット、スイーパーを駆使し三振の山を築いた
【3本塁打&10奪三振 リーグ優勝決定シリーズ第4戦 10月18日】2本目のホームランを放った瞬間の一枚。打った瞬間にファンも本人もスタンドインを確信していた
圧倒的な活躍が評価され文句なしのMVPに輝いた。長く続いていたスランプからも脱出
【4打数4安打2本塁打9出塁 ワールドシリーズ第3戦 10月28日】延長18回までもつれ込んだ死闘の最中、ベンチから仲間を鼓舞する。守備に就かずとも献身を忘れない
この日2本目のホームランは左中間へ。リードを許した直後の同点弾で、ドジャースナインに希望を与えた