“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】

“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)

“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)

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11月18日午後2時頃、台湾有事に関する高市早苗首相の国会答弁を巡り、日本外務省の金井正彰アジア大洋州局長と中国外務省の劉勁松(りゅう・けいしょう)アジア局長の協議が行われた。

中国中央テレビ(CCTV)系列のSNSアカウント「玉淵譚天(Yuyuan tantian)」に掲載された20秒ほどの映像では、協議終了後に金井氏と劉氏が外務省のエレベーターから一緒に出てくる様子が映っており、その映像が拡散され波紋を広げた。全国紙国際部記者が語る。

「胸に国章をあしらった『五四運動(注:1919年に発生した抗日、反帝国主義を掲げる学生運動)の青年服』を身にまとった劉氏は、ポケットに両手を突っ込み、険しい表情で立っていました。

金井氏が通訳の方に耳を傾ける場面が切り取られると、『日本側が頭を下げているように見える』として日本国内で不満が噴出。劉氏の態度に対しても『無礼だ』『品位がない』と指摘する声が多くあがっています。日中高官の対照的な態度は、アジア圏の多くのメディアが取り上げることとなりました」

劉氏は、中国外交部でアジア(一部中東を含む)圏を中心にキャリアを積み重ねてきた高官。2018年には駐アフガニスタン大使に任命され、中国の「一帯一路」構想のなかで、重要な役割を果たしてきた。

「ニコニコ笑顔」で日本人高校生と握手する劉勁松アジア局長(SNSより)

「ニコニコ笑顔」で日本人高校生と握手する劉勁松アジア局長(SNSより)

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日本の高校生には自分から握手を…

そんな劉氏は昨年10月、北京・中国外務省にある広場「オリーブホール」で、日本から訪れた高校生らを笑顔で迎え入れていた。

「公益財団法人イオン1%クラブと在日本中国大使館が主催し、2009年にはじまった『中日小大使(小さな大使)』交流プログラムでのことです。

中国と日本の高校生80人が交流し、相互学習などを行います。これまで1400人以上の中国と日本の高校生が参加してお互いの国を訪問しており、2024年は5年ぶりの再開となりました。こうしたなか、北京の外務省で高校生らを迎え、大勢の前で話をしたのが、劉氏だったのです」

劉氏は「中日は2000年以上にわたる友好的な交流を享受してきたが、近代には不幸で痛ましい歴史もあったことを、私は皆に伝えなければならない」「歴史を振り返り、未来に向き合うことは、憎しみを継続するためではなく、中日両国の世代を超えた友好関係を促進することにつながります」と述べ、若い世代による日中関係の構築を激励した。

中国のSNSで広まった動画。左が金井正彰・外務省アジア大洋州局長、右が劉勁松・中国外務省アジア局長(中国国営テレビ電子版より、時事通信フォト)

中国のSNSで広まった動画。左が金井正彰・外務省アジア大洋州局長、右が劉勁松・中国外務省アジア局長(中国国営テレビ電子版より、時事通信フォト)

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「劉氏は、日本から訪れた高校生に対して、握手をするために自ら手を差し伸べていました。また、物議を醸している“両手ポケット”動画に映った険しい表情とは対照的で、ずっとニコニコされていた印象です。

このたびの局長協議において、立場上、毅然とした態度で臨んでいたのは間違いないでしょう。劉氏は、普段から外交官としての役割に徹する真面目な方で、公式な場でポケットに手を入れるようなことはしません」

劉勁松アジア局長はアフガニスタンで奨学金などを現地の子どもらに提供するなど外交官として活躍してきた(大使館のHPより)

劉勁松アジア局長はアフガニスタンで奨学金などを現地の子どもらに提供するなど外交官として活躍してきた(大使館のHPより)

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中国の事情に詳しいフリージャーナリストの西谷格氏は、「自国民へのパフォーマンスとの見方が強いです」と語る。

「高市早苗首相の台湾有事に関する発言は中国メディアでも大々的に報じられており、中国人にとって最大の関心事。国民感情の昂りを抑えるためにも、自国の優位性をアピールすることが求められていたのでしょう。また、そうすることで国民は中国共産党の存在に安心感を覚えます。

最もわかりやすいのは、写真一枚で『我が国は、日本に対して強気な態度を取っているぞ』と見せつけることだったのでしょう。通常であれば、外交の場でメディアがどのような場面を撮影するか、中国側と日本側は事前に打ち合わせを行うのが一般的。ところが、今回はそうした相談や調整はなく、金井氏は何も知らずに自然体で出てきたところをいきなり撮影されてしまったようです。中国共産党による自国民への“パフォーマンス”に、まんまと乗せられてしまったのかもしれません」

緊張状態の続く日中関係。国民が注視している。